研究課題/領域番号 |
15K18246
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
細川 明秀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 無機機能材料研究部門, 研究員 (10748461)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 永久磁石 / TEM / 異方性 / 配向 / サマリウム鉄窒素 / 保磁力 / 角形比 |
研究実績の概要 |
ハード磁性材料(=永久磁石)の特性は粉末粒径に強く依存する事が知られているが、Sm-Fe-Mn-N磁石は世界最強の永久磁石材料であるが、興味深い事に化学量論組成(Sm2(FeMn)17あたりN原子の数x=3)を超えて過窒化を施すと単結晶だった粉末中に結晶相が非晶質相に区切られたナノセル組織を示し、この非晶質相が磁壁のピンニングサイトとなって粗粉末でも良好な保磁力を示す事も知られている。文献によれば、高保磁力が得られる試料では、x>5.5において非晶質相で区切られた等軸結晶相からなるナノセル状組織が、そして4<x<5においてワイヤー状の非晶質相や高密度の転位からなる組織などが報告されている。この様にして作られたSm-Fe-Mn-N磁石は高保磁力の割には角型性が乏しいため普及するには至らなかった。その原因は過窒化でナノセル組織が形成する時に何らかの駆動力により回転してしまい、等方的になるためであると考えられる。この駆動力については下記二つの仮説が考えられる。 仮説A:窒化によって一軸異方性になると内部の磁気エネルギーが高くなり、それを緩和するために結晶が回転する。 仮説B:窒化によって格子内に窒素が侵入し、c軸が伸びると内部ひずみが発生して、それを緩和するために結晶が回転する。 昨年度は窒化条件の最適化と組織観察に重点を置きつつ仮説Aの実証に努めてきた。その結果、Sm-Fe-N合金が窒化されナノセル組織が形成される様子を観察する事に成功した。また、キュリー点(磁気相転移温度=この温度以上で材料は磁性を失う)を挟んだ2種類の温度で過窒化を行った、配向性に変化はない事をつきとめた。これは仮説Aが正しくない事を示唆している。仮説Aが正しくないという証拠をつかんだので、次年度の計画通り仮説Bの実証に向け熱間強加工を駆使してナノセル組織の配向化を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は窒化条件の最適化と組織観察に重点を置き、Sm-Fe-Mn合金の窒化と磁性粉末の組織観察を行うノウハウを構築する事ができた。また、キュリー点(磁気相転移温度=この温度以上で材料は磁性を失う)を挟んだ2種類の温度で過窒化を行い、窒化温度は配向性に強く影響しない事をつきとめた。これは仮説Aを否定するものである。研究計画に書かれてある「結晶回転の証拠」「窒化温度と配向性の関係」についても調査が完了しており、次年度の計画に移行する上で障害もない事から、「おおむね順調に進展している」との自己評価をくだした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究が概ね順調に進んだため、研究計画通りに進めていく。基本的には熱間強加工を駆使して上記の仮説B「窒化中に起こるc軸の伸びに伴う内部ひずみ説」の実証とナノセル状組織の配向化に努める。磁粉内の材料組織を高配向化する手法として、以下の2つが考えられる。 a)窒化処理で回転し、等方性になってしまった磁粉を熱間強加工で配向させる(再び回転させる)方法 b)窒化処理中の結晶相回転を抑制する方法 この2種類の方法もしくはこれらの組み合わせにより高配向化させ、Sm2(FeMn)17Nx磁粉の異方性化を達成する。最終的には組織観察から選定した最適窒化条件と熱間強加工を組み合わせて配向が強くなる磁粉作製条件を出し、従来材を角型性で凌駕するSm2(FeMn)17Nx磁粉を作製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度中に、関連する別のプロジェクト予算で熱間加工試験機を導入する事になった。そのため、当初使用を予定していた古い強加工装置で使用するための加工治具を作る必要がなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
新しく導入した装置に適した加工治具を特注で製作する。また、国際会議の旅費への使用を計上している。
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