永久磁石の特性は粉末粒径に強く影響される事が知られている。そのため有力な永久磁石材料の1つであるSm-Fe-N磁石において粉末粒径を下げるための努力がなされてきた。これに対し、化学量論組成(Sm2Fe17あたりN原子の数x=3)を超えて過窒化を施すと、特にMn添加した合金系において、元々単結晶だったSm-Fe-Mn粉末中にナノ結晶相が非晶質相に区切られたナノセル状組織を示し、この非晶質相が磁壁のピンニングサイトとなって粗粉末でも良好な保磁力を示す事が知られている。しかし、この方法で作られたSm-Fe-Mn-N磁石は高保磁力の割には角型性が乏しく普及するには至らなかった。これは、過窒化の最中に転位セルが生成し、結晶が回転して結晶方位がランダム化する事に起因すると言われてきた。 初年度研究で、窒化温度をキュリー点上下に設定する事で、強磁性と常磁性のいずれの状態で過窒化しても磁気特性が等方性化する事を見出し、磁性の有無と等方性化の間に特に関係はない事を明らかにした。2年目は、電子顕微鏡を駆使し、過窒化による粉末内組織の変化を詳細に調べてナノセル状組織生成のメカニズム解明に取り組んだ。その結果、非晶質相に区切られたナノ結晶セル組織は確認されたものの、転位セルは全く見られず、結晶セル部分の方位はほぼ配向している事が明らかになった。これは転位セルの生成が結晶セルの回転に寄与しているとする従来の解釈を覆す結果であり、本研究を実施した事で得られた新知見である。 転位セルが生成しない事が分かった以上、応力印加して過窒化すれば転位生成を抑えて配向粉末を作れるという当初の目論見は崩れた言わざるを得ない。しかし、逆に言えば結晶方位は揃っている事が確認できたので、今後は磁気特性の等方性化に寄与してると思われる非晶質相の体積分率を下げる事で異方性磁粉の達成に重要であると考えられる。
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