5083アルミニウム合金の板材をダルロールにより総圧下率85 %で冷間圧延し,塩浴において短時間の焼鈍を施すことで〈111〉//ND方位を有する結晶粒が生成しやすくなる.ただし,この結晶方位は試料表層で最も多く観察され,内部に向かうにつれて別の集合組織へ移行する.理由は,せん断応力が内部にまで導入されていないためである. 1パスあたりの圧下率を上昇させて繰り返し圧延を行うことで,〈111〉//ND方位を有する結晶粒の数は増加した.しかしながら,増加傾向にあるのは表層近傍のみであり,その効果は試料内部にはおよばなかった.スプリングバックを生じることから,加工硬化に伴って機械的強度が増すことにより,せん断変形が起こりにくくなると考えられる. 前述を受け,適宜応力を解放することを目的として圧延後に中間焼鈍を設けて一連の工程を実施した.その結果,試料表層に形成していた〈111〉//ND方位を持つ結晶粒は内部から成長してきた再結晶粒に侵食された.侵食後の集合組織はCopper方位,Brass方位およびS方位からなる圧延集合組織に変移した.表面直下の変形組織が圧延集合組織に類似しており,その方位を継承した再結晶が優先的に成長しやすく,これらは〈111〉//ND集合組織形成の阻害因子だと結論付けられる. また,圧延方向に対して0°,45°および90°方向で切り出した引張試験片によりr値の算出を試みたが,〈111〉//ND集合組織の表層形成だけでは向上がほとんど見られなかった.
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