研究課題/領域番号 |
15K18258
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
河府 賢治 日本大学, 理工学部, 助教 (10424748)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超音波振動 / 粉体 / 摩擦低減 / 分級 / 分離 |
研究実績の概要 |
計画通り実験を行い,平成27年度は次の結果を得た。 1)超音波振動による粒子-壁面間の摩擦低減評価。板上に粒子を散布し,周波数20.5kHzの超音波振動による音圧,表面振動を粒子に与え,摩擦係数を測定した。実験の結果,音圧の影響と比較すると表面振動では小さい振幅で摩擦係数が減少しており,同時に作用する場合は表面振動が支配的であることが明らかになった。また表面振動効果は,粒子径が小さい場合は差が見られないが,500μm程度以上では粒子密度が大きいほど低減効果が大きくなることが分かった。さらに音圧効果は,粒子径が大きいほど材料に関わらず低減効果が大きくなることが分かった。 2)混合粒子群の分離・分級の試行。上記の通り摩擦低減効果に関し,粒子径や材料ごとの相違が明確に表れたため,計画になかった混合粒子群の分離・分級を試み,その可能性を調べた。分級では,粒子径の異なる4種類のシリカ粒子を混ぜて板上に散布し,超音波音圧を変えながら粒子に与え,板上から落下した粒子を抽出した。その結果,板から落下する粒子径が音圧により異なり,分級できることが分かった。また,粒子径が650μm付近のチタンと鉄粒子を均一になるように混ぜて板上に散布し,表面振動を与え,板上に残留した粒子と落下した粒子群に分けた。この粒子群をプラズマ発光分析法により調べた結果,鉄粒子を約80%抽出でき,分離に成功した。 3)浮遊板・振動板上の粒子挙動評価。振動する板上に直接粉体を散布した場合と浮遊板を置き,その上に粒子を散布した場合でその挙動を高速度カメラを用いて調べた。その結果,振幅が小さい場合は粒子径と密度が大きいほど速く動くが,振幅が大きくなると逆に遅くなることが分かった。さらに振幅が大きくなるほどその相違が大きくなり,この差を利用することで,混合粒子群からの分離・分級の処理能力を向上できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に予定していた振動周波数20.5kHzにおける粉体と壁面間の摩擦低減効果実験を計画通り粒子材料や粒子径を変えながら行い,音圧ならびに表面振動による影響を明らかにした。また事前の結果予測以上に粒子材料や粒子径による摩擦低減効果の相違が現れたため,当初平成29年度に実施する予定であった混合粒子群からの大きさごとの分級や材料毎の分離を振動周波数20.5kHzにて試みた。その結果,超音波により生ずる音圧を利用することで分級が可能であることが分かった。さらに,粒子径が500μm程度以上の混合粒子群であれば表面振動を利用することで材料毎に分離できることが明らかになった。当初の計画以上に研究が進んだため,これらの研究結果をまとめ,粉体工学会誌に論文投稿し,平成28年2月号に掲載された。 しかし,分離・分級効率を向上させるため,ならびに処理量を増やすためには改善が必要であることも分かった。そこで,平成28年度は摩擦低減効果実験において周波数を38,50kHzの2種類で実験する予定であったがこれを38kHzのみとする。そして,音響透過係数による摩擦低減効果を評価するため,超音波振動板上に球形粒子を置き,跳躍する粒子高さを調べる実験を行うこととする。音響透過係数による粒子挙動差が明らかになれば,密度や粒子径以外にも分離・分級の物性値として用いることができ,分離・分級効率向上だけでなく,既存手法では困難であった混合粒子群に対しての適用性も示すことになる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究結果により,振動周波数20.5kHzのみでも混合粒子群からの分離・分級が可能であることが明らかになった。しかしながら,処理能力は低く,更に多くの混合粒子群を分離・分級するためには周波数変更による超音波音圧や表面振動による摩擦低減効果の評価実験だけでなく,他の実験も必要と考えている。そこで平成28年度は下記3種の実験を行うものとする。 1)周波数変更の摩擦低減実験(38kHzを予定)。平成27年度の振動周波数20.5kHzから38kHzに変更し,同様に粒子材料や粒子径を変更しながら実験をし,超音波音圧や表面振動による摩擦低減効果の評価を行う。そして,20.5kHzにおける結果と比較し,相違を明らかにする。 2)粒子の跳躍現象評価。真空容器内で板上に球形粒子を落下させ,その粒子の跳ね上がり高さを測定する実験を粒子径や材料を変更しながら行う。これは振動板を伝播してきた振動エネルギーの粒子への透過の影響を調べる実験であり,材料ごとの相違が明らかになれば粒子の音響透過係数による影響が明らかになる。つまり,既存の分離・分級法と異なり複数の物性値を用いて混合粒子から分離できることを意味し,適用範囲を広げ,分離効率を向上させることになる。なおこの実験で用いる供試粒子については準備済である。 3)振動板・浮遊板上の粒子挙動測定。振動周波数38kHzにて平成27年度同様に浮遊板,振動板上の粒子挙動を測定し,音響透過係数や粒子密度,粒子径ならびに振動振幅に対する変化を明らかにし,分離・分級作業における処理量向上の可能性を探る。 なお,当初平成28年度に計画されていた周波数50kHzの摩擦低減効果実験は,平成29年度に行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通り装置を準備し実験を行ったが,計画通りの値段ではなかったため,残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
申請時の研究計画ならびに前述の通り,平成28年度は振動周波数を変更した実験を行う予定である。この実験では平成27年度と同じ粒子を使用して実験を行うが,振動板を新たに設計し,製作する必要があり,その費用として用いる。
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