研究課題/領域番号 |
15K18262
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋月 信 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (30707188)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高温高圧水 / 超臨界水 / 固体酸触媒 / 脱水反応 / 触媒安定性 |
研究実績の概要 |
本研究では、高温高圧水が固体触媒の酸性質に与える影響、触媒の安定性に与える影響を解明し、それらを利用した脱水反応の制御手法の提案を行うことを目的としている。これまでに、以下の検討を行った。 まず、酸性質が異なる代表的な触媒種が高温高圧水中で示す酸の種類と量を評価するため、既存の検討範囲を超えた60 MPaまでの実験が可能な装置を製作し、1-オクテンの異性化・水和、2-オクタノールの脱水反応をテスト反応とした検討を行った。TiO2触媒について、400℃一定下で圧力依存性の検討を行った結果、圧力が増加すると生成物である2-オクテンのシストランス比が1に近づき、60 MPaではその値がほぼ1となってブレンステッド酸が支配的になることが明らかになった。またこの結果は、これまでに33 MPaまでの検討から示唆されていた傾向と矛盾しない結果となった。 次に、触媒の安定性に対して高温高圧水の諸物性が与える影響を明らかにするため、反応中に触媒への炭素析出が進行する反応の典型例として、グリセリンの脱水反応をテスト反応とした検討を行った。WOX/TiO2とNbOX/TiO2を触媒とし、温度400℃、圧力25 MPa、33 MPaの条件で検討を行った結果、まずNbOXのように中程度の酸強度を持つ触媒の場合、超臨界水は炭素前駆体であるアクロレイン重合物を溶解し、炭素析出の抑制に寄与することが示唆された。また圧力が高い33 MPaの場合、超臨界水のイオン積が大きいため、WOXのように酸・塩基耐性が小さい活性成分は超臨界水に溶出して活性低下に寄与することがわかった。一方、高圧条件ではいずれの触媒についても炭素析出が抑制され、活性低下が抑制されることが明らかになった。これは、圧力増加に伴う拡散速度の減少が、反応速度の減少に比べて小さく、高圧ほど生成物の輸送に有利な条件になったためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高温高圧水中で触媒が示す酸性質のモデル化については、当初計画と順序を多少変更し、テスト反応を利用した酸性質の評価と塩基性物質の吸脱着挙動を利用した酸性質の評価を並行して進めている。テスト反応を利用した評価については、TiO2触媒の酸性質を高圧まで評価済である。塩基性物質の吸脱着挙動を利用した酸性質の評価については、装置が完成し、評価手法の確立を進めている。 高温高圧水中の触媒の安定性については当初の計画以上に進展しており、高温高圧水が触媒への炭素析出、活性成分の溶出挙動に与える影響を定性的に明らかにし、それら触媒劣化要因と反応活性との関係を定量的に評価している。
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今後の研究の推進方策 |
酸性質のモデル化については、まずテスト反応を利用した酸性質の評価について、対象とする触媒種を拡張し、高温高圧水中での固体触媒の酸性質について水物性による影響と触媒種による影響の切り分けを行った検討を進める。また、塩基性物質の吸脱着を利用した検討について評価手法を確立し、各触媒種の高温高圧水中での酸量を評価する。これらの知見に基づき、高温高圧水中の固体触媒の酸量と酸性質を、水物性と触媒物性から予測するモデルを構築する。また、モデルの妥当性を検討するため、計算機科学による検証を行う。 高温高圧水中の触媒の安定性については、水物性や触媒構造の影響をより定量的に明らかにする。具体的には、水物性をより大きく、系統的に変化させた検討を行うと共に、構造を制御した触媒を用いた実験を行う。 これらの知見を統合することで、固体触媒反応に対し高温高圧水が与える影響を解明し、その影響を積極的に利用した反応制御手法の提案を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度はほぼ当初の計画通り使用したが、一部の試薬を次年度使用することとしたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費は、装置のメンテナンスに必要なステンレス製配管・継手と、分析装置消耗品、試薬の購入費に使用する。また、計算用ソフトとそれを導入するコンピュータの購入を予定している。その他、研究成果発表のための旅費に使用する計画である。
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