本研究は、高温高圧水が固体触媒の酸性質に与える影響、触媒の安定性に与える影響を解明し、それらを利用した脱水反応の制御手法を提案することを目的としている。 まず、高温高圧水が酸性質に与える影響を、既存の検討範囲を超える65 MPaまでの実験が可能な反応装置を構築し、モデル反応を利用して検討した。400℃で圧力を変化させたオクテンの反応およびグリセリン脱水反応の結果から、反応は基質が表面に吸着して進行するラングミュア-ヒンシェルウッド機構で整理でき、水密度の増加と共に反応が抑制される一方、高水密度ではイオン積の増加によって、上記の反応抑制効果が抑制され反応速度が増加する場合があることを示した。イオン積による反応促進効果は表面での水分子の解離に伴うブレンステッド酸点の増加に依ると考えられ、ルイス酸性を示しやすい二酸化チタンや担持ニオブ触媒で顕著に見られる一方、ブレンステッド酸性を示しやすい担持タングステン触媒ではその影響が小さいことが明らかになった。イオン積の影響を明確に検討するため、ピネンの反応を250℃の高温高圧水中、水蒸気中、ヘリウム中で比較した結果、高温高圧水中でのみ二酸化チタン、担持ニオブ触媒が顕著にブレンステッド酸性を示した。これらの結果は、高温高圧水中では一般的な気相の触媒反応と異なる生成物選択性を得られる、また物性を大きく可変な超臨界水中では反応速度と選択性を制御出来る可能性を示しており、それら水の影響の定量的評価を行った点は反応の制御において重要な成果と考えられる。 また、高温高圧水は触媒の安定性にも影響を与え、400℃におけるグリセリン脱水反応では高圧条件で、また250℃におけるピネンの反応では気相と比較して炭素析出量が顕著に少なくなり、水の溶媒効果が重合反応や輸送現象に影響を与えることで炭素析出を抑制できる可能性が見出された。
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