研究課題/領域番号 |
15K18266
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤岡 沙都子 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (50571361)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マイクロバブル / 溶解 / 収縮 / マイクロ流路 |
研究実績の概要 |
本研究では「マイクロバブルの急速な溶解による結晶製造プロセスの開発」を目的とし、静止流体中に単一微細気泡を生成し、溶解・収縮速度について解析を行った。微細気泡では溶存気体の液相中での拡散速度に比べて気泡から液相への溶解速度が大きく、溶解中の気泡周囲に高溶存気体濃度領域が形成されると考えられる。局所的な高濃度領域を利用して希薄溶液からの結晶析出が期待されるが、結晶製造プロセス設計のためには微細気泡の溶解速度と気泡周囲に形成される濃度分布を予測可能にする必要がある。これまでに、ガス種や初期気泡径が気泡収縮速度に及ぼす影響を実験により明らかにするとともに、微細気泡周囲に形成される高溶存酸素濃度場を酸素呈色試薬を用いた可視化実験により明らかにしてきた。 今年度は、静止流体中の微細気泡の溶解速度を予測するモデルについて検討を行った。昨年度に引き続き、気泡界面近傍に高溶存気体濃度領域の形成を加味したモデルを用いて計算による気泡径減少速度と、可視化画像から計測した気泡径減少速度の比較を行い、代表的な条件において良好な一致を得た。限られた系での検討結果しかないため、今後はより汎用性の高いモデルとなるよう、液物性や界面活性剤による物質移動速度への影響を考察する。 また、酸素気泡の収縮実験を行い、気泡周囲に形成される溶存酸素濃度分布の測定に挑戦した。濃度分布測定のために昨年度設計・製作した樹脂製のマイクロ流路では樹脂を通しての酸素溶解の影響を取り除けなかったため、マイクロ流路内での濃度分布測定のかわりにガラス製容器内に局所溶存酸素計および微細気泡生成用マイクロシリンジを微小距離だけ離して設置し、濃度の経時変化を測定した。その結果、気泡溶解に伴う溶存酸素濃度の上昇が検知されたが、容器内の液対流の影響等の理由により計算値との定量的な比較までは行えていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計算については、微細気泡の溶解に伴う気泡径変化を計算するモデルは構築し、代表的な実験条件での実測結果との比較を行ったが、この際既往の文献をもとに界面活性剤による気液界面での物質移動阻害効果を取り入れた。このモデルを任意の系へ適用可能かどうか慎重に検討する必要が生じた。 実験については、濃度分布測定用に設計、製作したPDMS製マイクロ流路において、当初想定していた以上に大気からの酸素溶解の影響が大きかったため、実験装置の改善に時間を要した。マイクロ流路周囲を大気としない実験系での測定や、マイクロ流路表面加工による酸素透過抑制など、複数の対策を講じたが良好な結果が得られなかったため、マイクロ流路内での濃度分布測定を一旦中止し、ガラス容器に液相を充填し、微小距離隔てて設置した微細気泡生成用マイクロシリンジと局所溶存酸素計を用いて実験を行った。大気からの酸素溶解の影響は抑制されたものの、容器内液対流の影響が大きく、計算結果と比較可能なデータの計測には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
計算については、昨年度にモデルに取り入れた界面活性剤が気泡界面での物質移動を抑制する効果について、必要な係数が任意の物質に対して入手可能かどうか文献調査を行う。 実験については、より信頼性の高い予測モデルの確立を目指し、まずは気泡観察画像の解像度を上げる工夫をした上で、より広範囲な物性および操作条件範囲での気泡観察を行う。気泡周囲の濃度分布測定については、ガラス製マイクロ流路あるいはガラス製気泡観察および液相濃度測定装置を特注し、大気中の酸素混入を抑制しつつ液対流の影響がない条件下で濃度測定を行う。この際、導入済みの局所溶存酸素濃度計の取り付け方法が大きな課題となることが予想される。困難な場合の対策として、非接触式の溶存酸素濃度測定センサーの利用についても検討中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
微細気泡周囲の溶存濃度分布計測において、使用するマイクロ流路壁面を通しての酸素の混入およびセンサ挿入時の液対流の2つの問題が当初想定していた以上に大きく、実験に時間を要した。測定用のガラス製セルを特注することで壁面からの酸素混入の影響は除外できると考えられるが、局所溶存酸素計の設置が困難であり、治具の製作など特注部品を設計、製作する必要がある。代替案としては、非接触式の溶存酸素濃度計を用いる方法が考えられる。この場合、数ミリメートル程度の大きさのセンサチップを測定用ガラスセルの内側に取り付け、セル外側からセンサを当てることで測定が可能であるため、センサ挿入による液対流の影響やセンサ挿入部からの酸素混入の影響が無視できると期待される。これらの測定装置改善に必要な物品を購入し、より正確なデータを取得する予定である。
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