クラスター錯体は金属-金属結合をもつため、新しい反応性を示す触媒として期待されてきた。しかし配位子が一酸化炭素であるカルボニルクラスターでは金属間での結合が弱いため、高温下でクラスター骨格を保持したまま触媒として働いた例はほとんどない。これに対し、配位子として硫黄原子を用いたスルフィドクラスターを用いると、クラスター骨格が熱に強いため、加熱条件下でも安定に保たれたまま、触媒として機能することが期待される。 シリカゲルに担持した外部配位子がヒドロキソ配位子であるレニウムスルフィドクラスターを水素気流下加熱処理すると、2つのヒドロキソ配位子から1つの水分子が脱離し配位不飽和点が生じる。これが高温でも安定なルイス酸として働く。このクラスターを触媒として用いることで、アニソールと塩化ベンゾイルによるFriedel-Craftsアシル化反応が選択的に進行することを見出した。 一方、レニウムスルフィドクラスターは外部配位子の違いによって活性化機構が異なることが予想される。これまで既存の外部配位子がアクア配位子であるレニウムスルフィドクラスターにおいて水素気流下加熱処理を行うと、不均化反応が起き、アクア配位子からプロトンが放出されブレンステッド酸として作用することがわかっている。そこで新たな活性化機構の発現を期待し、外部配位子がフェノキシド類やピリジン類であるレニウムスルフィドクラスターを新規に合成し、その構造について明らかにした。
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