研究課題/領域番号 |
15K18271
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
本田 正義 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員 (70734078)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セルロース / キトサン / カルバミン酸エステル / 二酸化炭素 |
研究実績の概要 |
本研究はバイオマス成分を二酸化炭素で直接エステル化し、ポリマーを合成する新規触媒の開発と反応機構の解明を目的としている。バイオマスの構成成分であるセルロースやキチンはいずれも水や有機溶媒に不溶であり、化学反応への利用の障害となっている。一方これらをエステル化した誘導体は、様々な有機溶媒に溶解するため取り扱いが容易である。誘導体としてカーバメートを合成した場合にはポリウレタン、カーボネートを合成した場合にはポリカーボネートの新規原料となることが期待できる。 本年度は、エステル化の反応条件に近い条件の下でセルロース等のバイオマス成分を液相に溶解できるかどうかを検討した。これまでセルロースを溶解する混合溶媒として、有機・無機の強塩基とジオール等のアルコール、さらにジメチルスルホキシド等の有機溶媒の組み合わせが知られていた。これに対し本研究では、有機塩基であるDBUを少量用い、0.5 MPa程度の二酸化炭素で加圧することによって、アルコールを添加することなくセルロースを溶媒中に完全に溶解できることを見出した。ここで使用したセルロースはボールミルや酸による前処理を一切行っていないことも特徴である。反応条件の検討により、反応後のセルロースは粘性の高い液体やゲル状の沈殿等の様々な状態をとることが明らかになった。これらの生成物の分析をFTIR、NMR、XRD等で検討しており、塩基や溶媒を選択することによってセルロースの反応性を制御できると考えている。以上より比較的温和な条件下でセルロースを溶解、反応させることができると期待される結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、セルロース等のバイオマス成分をエステル化する反応条件で溶解試験を行い、効率的に溶解する基質と溶媒の組み合わせを明らかにすることを目的としている。これまでセルロースの溶解には有機塩基、ジメチルスルホキシド溶媒、アルコールの組み合わせが報告されていたが、実際に溶解試験を行ったところ不透明な溶液が得られ、セルロースが溶液中で単に膨潤・分散した状態であると思われる。一方、エステル化反応に用いる二酸化炭素で加圧(0.5 MPa)したところ、アルコールを添加することなく透明で均一な溶液が得られた。また5 MPaの高圧条件ではセルロースが塊状となって析出した。カーバメート化は二酸化炭素圧力0.5 MPa程度でも反応が進行することがわかっており、比較的温和な条件下での反応が期待できる。加えてボールミル等の前処理を行うことなく、Avicelのような微結晶セルロースを直接反応に適用できるという特徴がある。 有機塩基と溶媒の組み合わせについても検討を行った。溶媒はジメチルスルホキシド以外にもジメチルアセトアミド等、数種類の溶媒でセルロースが溶解したのに対し、塩基は有機・無機にかかわらず強塩基が必要であることが明らかとなった。当初は塩基を基質の1-ブチルアミンで代用することを予定していたが、1-ブチルアミンの添加によってセルロースが溶解しなくなるという結果が得られている。そのため、あらかじめセルロースを溶解させ、その後1-ブチルアミンを添加するという2段階の手法を用いたところ、粘性の高い液体やゲル状の沈殿が生成した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は当初の予定通り、単糖等のモデル化合物を位置選択的にエステル化する触媒を開発し、実際のバイオマス成分に適用する。また反応機構の解明の解明も視野に入れる。 一方で当初の予定と異なる点は、固体触媒だけでなく均一系の塩基触媒も検討する点である。本年度の研究ではセルロースの溶解に塩基を用いたが、これらの塩基はエステル化反応に有効とされているものが多いため、これらの塩基が均一系の触媒として機能する可能性がある。そこで次年度は当初の予定であった固体触媒に限定せず、これらの塩基が有効な触媒となるかどうかについて検討を行い、次年度も反応条件の検討を継続する予定である。 また実用化の視点から、溶液中に溶解したバイオマス成分と固体触媒との反応だけでなく、基質と均一系触媒を混合することによってバイオマス成分をそのままバルクの状態で反応に用いることができるかどうかの検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度の途中で所属を変更したため、当初購入を予定していた温度調節器などを購入する必要がなくなったが、代わりに高圧ガス配管等の設備を整える必要があったため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の予定では試薬の購入が大きな割合を占めていたが、これに加えて触媒調製用の電気炉や石英管等も購入する予定である。
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