本研究はバイオマスを構成する糖類を二酸化炭素で直接エステル化し、ポリマーを合成する新規触媒の開発と反応機構の解明を目的としている。セルロースやキチンはいずれも水や有機溶媒に不溶であり、化学反応への利用の障害となっている。一方これらをエステル化した誘導体は、様々な有機溶媒に溶解するため取り扱いが容易である。誘導体としてカーバメートを合成した場合には、ポリウレタン、カーボネートを合成した場合にはポリカーボネートが期待できる。 本年度はセルロースのエステル化による生成物の構造解析を行った。カーボネート化反応の生成物はカルボニル結合を持つことが1H NMRとFTIRにより確認されており、目的物が生成したと考えられる。一方、アミンを添加したカーバメート化反応でも同様の測定において同じピークを持つことが明らかになり、目的のカーバメートではなくカーボネート化が進行したことがわかった。しかし生成物の有機溶媒への溶解性が低く、触媒との分離もできていないことから、構造の決定が困難な状況である。一方でポリマーとしての熱物性を測定したところ、セルロースの熱分解は280℃付近から始まるのに対し、カーボネート化後の生成物は410℃で熱分解が起こった。セルロースの修飾による誘導体はほとんどが300℃付近に熱分解温度を持つのに対し、本反応で合成した生成物は約100℃程度高い耐熱性を持つことが明らかになった。これはバイオマス由来のポリマーにおける新たな特徴であり、興味深い性質である。本研究期間は終了してしまったが、この熱特性が生成物のどのような構造によってもたらされるかという点を明らかにすることは学術的に重要であると考えており、今後も引き続き研究を進める予定である。
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