研究課題/領域番号 |
15K18275
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
尾島 由紘 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (20546957)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フロック / 大腸菌 / 反応場 / 有用物質生産 |
研究実績の概要 |
微生物フロックは,これまで活性汚泥法に代表される浮遊式生物水処理技術において,産業的に利用されてきた.フロック形成能力は活性汚泥の性質を決める上で重要であるが,その自己凝集メカニズムは明らかとなっていない点が多い.本研究の目標は,大腸菌のフロック形成機構の解明と分子修飾に基づいた機能化の設計開発指針の確立である.大腸菌フロックを微生物集合体として用いることで,細胞内・細胞間の活性化を行う反応場として捉えることができる.微生物フロック形成の自在な制御が可能になれば,廃水処理,有用物質生産,感染症対策など,微生物が関与する分野・産業への波及効果は大きい. まずは,bcsB遺伝子の過剰発現により形成された大腸菌のフロックに関して,その誘導機構の解明と詳細な構造解析を行った.樹脂包埋したフロックのTEM観察や,LC-MS/MS解析などによるフロック構成成分の分析を行った結果,メンブランベシクルと呼ばれる大腸菌が産生する直径20-250 nmの細胞外小胞体が重要な役割を果たしていることを明らかにした.この結果は,メンブランベシクル産生量が促進または抑制すると報告されている欠損株を使用することでも裏付けられた. 次に形成するフロックのサイズを制御するパラメータとして,培養中の撹拌速度に着目した.結果として,撹拌速度が大きくなるにつれてフロックサイズは減少し,沈降に要する時間が長くなることが明らかとなった.この結果は,撹拌速度の増加に伴いせん断力などの物理的な力がかかり,フロックの凝集を妨げたためであると考えられる.今後は,形成された大腸菌フロックを,有用物質生産プロセスにおいて利用していく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ,大腸菌のフロック形成現象において,細胞外小胞体が重要な役割を果たしていること,ならびに培養中の撹拌速度を変化させることでフロックサイズを制御できることを明らかにした.また予備的な検討により,フロック表面上に多く存在するタンパク質の存在を明らかにしており,融合タンパク質をデザインすることでフロック上におけるタンパク質の固定化が可能であることを示唆している.
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今後の研究の推進方策 |
今後,上記のサイズ制御技術に基づき形成されたフロックに対して,さらに融合タンパク質を利用した機能化を行い,有用物質生産へと展開していく.具体的には,モデル系としてエタノール生産大腸菌であるKO11を使用して,形成したフロックによる沈降濃縮操作を行い,連続回分反応においてフロック形成の有効性を実証していく.他にも,融合タンパク質のフロック表面への固相分必発現が可能であると考えており,フロックの反応場としての積極的な利用を試みる予定にしている.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が計上していた金額よりも小さい支出となったため、次年度使用額が生じた.旅費以外の費目に関しては、おおよそ計上していたとおりとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記のように、前年度は旅費に計上していた金額に対して次年度使用額が生じたため、今年度は国内外における研究成果公開を積極的に行う予定である。
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