前年度に構築した大腸菌のフロック形成制御手法に基づき,モデル系としてエタノール生産大腸菌であるKO11を対象として,連続回分反応において形成したフロックによる沈降濃縮操作を行い,生産速度が約2倍に向上することを試験管レベルで実証した.さらに1Lのジャーファーメンター培養にスケールアップし,同様に沈降濃縮操作により生産速度が増加することを確認することでき,フロック形成が大腸菌を用いた有用物質生産において生産効率を向上させることを示せた。 また前年度までの結果から,フロックの主構成成分はタンパク質であること,さらにLC-MS/MS解析により,翻訳因子の1つであるElongation factor Ts (Tsf)と呼ばれるタンパク質の存在比率が最も高いことを確認していた.そこで本年度は,TsfにGFPを融合して発現させ,フロック上における融合タンパク質の修飾を試みた.共焦点レーザー顕微鏡によって観察した結果,フロック上に融合タンパクの発現が確認でき,特にGFPの緑色蛍光は菌体が存在しない領域も含めたフロック構造全体にわたって確認された.このことから,Tsf-GFPは菌体の外側にも排出され,フロック表面上に固相分泌発現されていると考えられた.一方で,tsfを融合せずGFPのみを発現した場合には,菌体内のみにGFPが局在している様子が確認された.この結果はウエスタンブロッティングによる定量解析によっても裏付けられ,翻訳因子Tsfと融合することで,大腸菌フロック上におけるタンパク質修飾が可能であることが実証された. 得られたこれらの研究結果は,大腸菌フロック形成を利用した物資生産における効率化や,フロックの更なる高機能化の実現に向けて大きな意義を持つものである.
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