本研究の目的は、大腸菌を利用した有用物質生産を効率化するための新たなツールとして、酵素ステープラーとしてsortase Aを用いた代謝チャネリング技術を開発することである。当該年度においては、酵素ステープラーとしてのsortase Aの大腸菌体内での働きをより詳細に調査した。具体的には、アセチルCoAを大腸菌中央代謝における分岐点と捉え、その前後の酵素であるピルビン酸ギ酸リアーゼ(PFL)およびリン酸アセチルトランスフェラーゼ(PTA)にsortase Aの認識配列をそれぞれ賦与し、sortase Aを用いた両者の連結による大腸菌代謝への影響を調べた。微好気条件下、グルコース5g/Lを含むLB培地で培養した。(A)PFLのみを発現する株、(B)PFLおよびPTAを発現する株、(C)PFL、PTAおよびsortase Aを発現する株について、それぞれ、培養上清をHPLCで分析することで有機酸の生産を分析したところ、C株においてはSortase AによってPFL-PTAが連結された後に、B株よりも酢酸生産が増大したという結果が得られた。A株、B株においては酢酸生産の代わりにピルビン酸が培養上清に分泌されていたこと、消費グルコース量がC株と比較して少量であったことから、C株のみにおいて大腸菌の中央代謝が酢酸生産に傾いていたということが示唆された。このことから、sortase Aを用いた代謝酵素の連結によって、代謝チャネリングを引き起こすことが可能であるということが示唆された。今後は、他の代謝酵素の連結による本技術の汎用性の拡張、あるいは外来経路を用いた実際の物質生産への応用が期待される。
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