研究課題/領域番号 |
15K18279
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研究機関 | 奈良工業高等専門学校 |
研究代表者 |
林 啓太 奈良工業高等専門学校, 物質化学工学科, 講師 (10710783)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自己集合体 / 薬剤カプセル / ドラッグ・デリバリー・システム |
研究実績の概要 |
本年度においては,Span/Tween系自己集合体の薬剤カプセルへの応用に向けた検討を行った.昨年の報告で,この2種類の界面活性剤を種々の割合で混合すると,ミセルからベシクルまで様々な自己集合体が調製可能であり,これらは構造依存的な特性を示すことを報告している(Colloids Surf. B, 152, 269-276 (2017)).この構造依存的な特性を基に薬剤カプセルへの応用を検討した.薬剤封入についてはモデル薬剤としてRhodamine 6Gを用いた.疎水的な分子であるRhodamine 6Gはミセル内部,またはベシクル膜内部へ移行する.各自己集合体と固体状態のRhodamine 6Gを撹拌して各時間における封入量を測定したところ,ミセルや液晶相を有するベシクルの場合では速やかに封入されたのに対してゲル相を有するベシクルの場合では,封入速度は非常に遅いことが明らかとなった.また,封入量を比較したところ,ミセルの方が多く封入されていることが明らかとなった.これはRhodamine 6G分子がミセル内部にまで容易に侵入できるのに対し,ベシクルの場合では,その規則的な構造からRhodamine 6G分子が膜内部にまで侵入することが出来ないためであると考えられる.また,自己集合体の血中での安定性を議論するため,Albuminとの相互作用を検討した.各自己集合体とAlbuminを撹拌して各時間におけるトリプトファン蛍光を測定したところ,Albuminはミセルよりベシクルと相互作用しやすいという可能性が示唆された.一方,NBD-PE,Rho-PEを用いたFRET法により自己集合体の安定性を検討したところ,ベシクルの方がミセルより安定であるという結果となった.つまり,血中においてミセルの方が様々な物質との相互作用を抑制できるが,ベシクルの方がより長い血中滞留時間が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
薬剤封入に関してはモデル薬剤であるRhodamine 6Gを用いた検討ではあるが,ベシクルとミセルでの封入の挙動の違いが明らかとなった.この議論を実際の抗がん剤である塩酸ドキソルビシンやパクリタキセルまで発展させていく予定である.また,血中での安定性もAlbuminとの相互作用に関して議論することである程度予想することが可能である.ただし,現在のところ,その差がわずかである点や血中に含まれるその他多くのタンパク質との相互作用も自己集合体の血中安定性に影響するため,慎重に議論していく必要がある.また,最も問題となるのがTween系界面活性剤におけるpolyethylene glycol (PEG)の存在である.Tween系界面活性剤のヘッドグループにはPEGが付加されており,PEGはAlbuminを初めとしたタンパク質の吸着を抑制することが知られている.従って,本研究で得られた知見であるAlbuminのミセルとベシクルに対する吸着の違いは自己集合体構造の特性に起因するものか,PEGによるものかについて,更なる検討が必要である.しかし,主に薬剤カプセルとして用いるための基本物性に関する検討は終了したため,これらの結果を踏まえて予定通りにがん細胞への応用を試みる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,より実用的な方向へと展開するため,細胞を用いた検討を予定している.マウス結腸腺癌細胞(Colon 26細胞)やマウス由来骨肉腫細胞(LM8 細胞)といったがん細胞に対して,抗がん剤(パクリタキセル)を封入した各自己集合体を添加して細胞の取り込みメカニズムと細胞毒性の違いを議論する.申請段階では,抗がん剤としてパクリタキセルを検討していたが,評価方法が容易である塩酸ドキソルビシンを用いることも検討している.本年度(平成28年度)の応用に関する結果も踏まえ,各自己集合体の構造依存的な特性と薬剤カプセルとしての機能を関連付けることで,テーラーメイド薬剤カプセルの可能性について言及する.ただし,異なる自己集合体を調製するためにSpan系界面活性剤,Tween系界面活性剤という2つの界面活性剤を用いる必要がある.既存の研究においても2種類の界面活性剤を用いた自己集合体の構造制御は報告されているが分子構造の大きく異なる界面活性剤を用いている場合が多い.そのため,例えばカチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を混合した場合などでは,自己集合体の構造に依存した特性の違いなのか,構成する分子の構造に依存した特性の違いなのかを断定することは難しかった.一方,本研究で用いているSpan系界面活性剤,およびTween系界面活性剤は親水基がソルビトール構造,疎水基がアシル鎖構造と比較的に類似した構造を有している.従って,従来の研究と比較してより自己集合体そのものの特性に基づいた議論が可能であるが,全く同じ構造ではないことを留意し検討を進めていく必要がある.
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