本研究では自己集合体のミセルやベシクルといった構造の違いに基づいた特性と,自己集合体を薬剤カプセルとして応用した場合の薬剤封入効率や細胞への送達効率といった機能との関係性に関して明らかにすることで,目的に即した自己集合体の選択を可能にする,所謂,テーラーメイド薬剤カプセルの可能性を議論した.従来,各自己集合体の特性の違いは議論されているが,それらは化学構造の大きく異なる界面活性剤を用いて行われている場合が多く,自己集合体の特性が界面活性剤の構造の違いに起因するか,自己集合体の構造に起因するかという議論が困難であった.一方で我々は構造の類似する2種類の非イオン界面活性剤を種々の割合で混合することで様々な構造の自己集合体が調製可能であることを明らかにした.その結果,ミセルは非常に運動性が高く,親水・疎水界面にも水分子を多く含んでいるが,ベシクル,特にゲル相を有する場合は水分子の侵入が抑制されていることが明らかとなった.また,この特性は薬剤にも当てはまり,疎水性薬剤を自己集合体に封入しようとした場合,ミセルの場合では薬剤は容易に疎水性領域に入り込むことが出来るがベシクルの場合では疎水性領域に入り込むことが出来ず親水・疎水界面に存在する可能性が示された.また,細胞への送達効率をフローサイトメーターにより測定したところ,ミセルよりもベシクルの方がより効率的に薬剤が送達可能であることが明らかとなった.これまでの報告では,動的な薬剤カプセルの方がより細胞と相互作用しやすいために効率的に薬剤が送達可能であると考えていたが,異なる結果となった.この原因としては,粒子サイズや親水基の構造など他の要因が起因していると考えられる.従って,各薬剤カプセルの機能において,どの特性がどの程度起因しているかをさらに議論する必要があるが,テーラーメイド薬剤カプセルの可能性を十分に示すことが出来たと考える.
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