研究課題/領域番号 |
15K18280
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
勝又 暢久 室蘭工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60534948)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 形状記憶合金 / 展開力制御 / 宇宙用伸展ブーム / 形状記憶ポリマ / 同期展開 |
研究実績の概要 |
巻尺のように部分円弧断面を有する形状記憶合金(SMA)を用いた宇宙用の新たな伸展ブームの開発を目標に研究を実施した。本研究は構造に関する研究と展開挙動制御に関する研究の2つの要素で構成されおり、それぞれの進捗については以下である。 まず構造については、小型衛星のデオービット機構のための膜や薄膜太陽電池セルを展開した後に支持構造として展開状態を維持できる必要がある。そのためミッションに対応した十分な構造剛性(とくに曲げ剛性とねじぎ剛性)が必要となる。SMAの短所としては、温度変化に対してヤング率が変化することで、変態点以下では約1/2倍まで低下する。周囲の温度状況が激しい宇宙空間での利用を考慮した場合、この温度依存性は構造剛性に大きく影響することから、低温時に高いヤング率を有する形状記憶ポリマー(SMP)との併用を検討した。実際にSMA&SMPを組み合せた伸展ブームの要素を設計・試作し、温度変化に対して一定の曲げ剛性を有する事を振動実験により明らかにした。 また展開挙動制御については、当初加熱中のSMAの温度を計測しながら加熱量を制御する手法を考えていたが、温度変化の展開挙動変化の変化速度が異なることから、より直接的かつパッシブな制御方法として、ケーブルとロータリーダンパを用いた制御システムを開発した。ケーブルはブームの先端とつながった状態でドラムなどに巻き付けておき、ドラムはシャフトなどを介してロータリーダンパと接続しておく。このシステムを搭載しておくことで、急激な温度変化で急展開しようとするSMAブームは、ケーブルを介してロータリーダンパの減衰力が作用するため急展開できなくなり、一番遅いスピードで展開するブームに展開速度を合わせることができるようになった。また展開の同期性が確保されたことにより、展開挙動の安定性が向上したことも、展開実験を通じて検証済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SMAのヤング率の温度依存性による構造剛性の低下を検討することの方が、断面形状や2枚の部分円弧断面梁を組み合わせた際の周囲の拘束方法などを検討することより重要な課題であると判明したことから、SMAの温度変化に対するヤング率変化を補うための方法として、温度変化に対するヤング率の変化の仕方がSMAとは逆の特性であるSMPと組みわせた伸展部アクチュエータの設計・評価を実施した。また金属のSMAとプラスチックのSMPではベースとなるヤング率が約10倍異なることから、板厚を調整することで曲げ剛性が等しくなるような設計を行った。上記のように設計したSMAとSMPを組み合わせ、温度が変化する場合の曲げ剛性を片持ち梁の自由振動試験により計測した。SMAのヤング率が低下するマルテンサイト相状態においても、SMPが構造要素として機能することで曲げ剛性の低下を抑制し、温度が変化しても一定の曲げ剛性を示す伸展部の設計手法が確立した。ねじり剛性に関しては、次年度に検討する予定である。 また加熱方法や展開挙動制御においては、発熱塗料を用いた非常に薄いシートタイプのヒーターを作成することで、安定した加熱が行えるようになった。また展開挙動制御については、研究実績の概要で示したように、ケーブルとロータリーダンパを用いたパッシブな展開力抑制機構を開発した。研究室規模の展開力制御機構とSMA伸展ブームの概念モデルを製作し、制御機構がある場合とない場合の展開実験を比較することで、展開挙動制御の評価を行った。制御機構の効果は良好であり、概ね安定した展開挙動を得られるようになった。ロータリーダンパの減衰力の選定や実際の衛星に搭載するための機構の小型化などが来年度の課題として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
温度変化に対する剛性低下を防ぐための概念検討は行えたが、3倍以上の板厚のSMPをSMAに張り合わせていることから、質量も増加している。またSMAとSMPを簡易的に面で接着して実験を行ったが、収納時のことを考慮するとSMAとSMPの組み合わせ方についても更に検討が必要である。また断面形状が曲げ剛性・ねじり剛性に与える影響についても定量的な評価が必要である。そこで、SMAとSMPの組み合わせ方法については、構造全体の軽量化、曲げ剛性とねじり剛性の維持、かつ収納効率を維持が達成できるようなSMPの形状・SMAとSMPの組み合わせ方を検討したい。また断面形状についての評価に関しては、各種パラメータを用いた有限要素解析を実施することで、定量的な評価や設計した曲げ・ねじり剛性が得られる最適な断面形状の設計が行えるような設計指針の確立を目標として研究を推進する。 展開挙動制御においては、概念モデルの小型化・簡略化が実衛星に搭載するためには必要になるため、機構を含めた検討を実施したい。また展開実験では展開挙動を動画として撮影し、その後画像解析することで各ブームの展開率などを計測した。パッシブ制御であるためこの手法で展開率を計測しても問題はないが、実ミッションを考慮すると、展開中にエラーが発生した場合などに展開を中断する必要があり、その場合には展開挙動をリアルタイムで計測できる必要がある。そこで、展開挙動をリアルタイムで計測・調整できるようにするための計測技術の確立を目標に研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験で多用する消耗品などにおいて、予定額から変動があったために差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた差額を含めた実験で必要となる物品の購入を予定している。
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