形状記憶合金(SMA)を用いた宇宙用伸展ブームの展開力制御に着目した研究を行った。当初は、ヒーターなどの過熱によって温められたSMAの温度をセンシングし、急激な展開を行わないよう展開力を制御することを検討していたが、SMA全体を一様に温めることが困難な事、また温度変化の応答と展開力の応答に対する時間遅れの問題から、温度制御を用いた展開力制御の手法は実用的でないと判断した。 そこで、ケーブルとロータリーダンパを用いた同期展開機構を新たに考案した。それぞれの伸展ブームの先端をケーブルでつなぎ、ケーブルは一つのリールに巻き取って収納されている。リールはロータリーダンパに接続されているため、伸展ブームが急激に伸展した場合には、ロータリーダンパの制動力によりブームの急激な伸展が抑制される機構である。この同期展開機構を搭載することにより、SMAが一様に加熱されない条件下でも、搭載した伸展ブーム(デモンストレーションでは4本使用)が同期的かつ安定して展開することが実証された。以上の展開実験を通じ、SMAを用いた宇宙用伸展ブームの展開力制御が達成された。 また、SMAは形状回復温度(Af点)以下になると剛性は半減する。温度変化が激しい宇宙環境での著しい剛性変化は、伸展ブームにとって扱いずらい性質であるため、その欠点を補うために性質が反対の形状記憶ポリマー(SMP)との組み合わせについても検討した。Af点前後の曲げ剛性が等しくなるようにSMAとSMPを組み合わせることで、温度変化に対して剛性が変化しない、新たなスマートアクチュエータの検討も行った。温度を変化させた曲げ剛性の計測実験からは、設計通りの温度変化に依存しない曲げ剛性が計測された。また、SMAとSMPを併用したSMA&SMP伸展ブームに同期展開機構を組み合わせた展開デモンストレーションにも成功した。
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