研究課題/領域番号 |
15K18282
|
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
勝身 俊之 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60601416)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 実験装置の構築 / 液滴燃焼 / レーザーエネルギー / 燃焼圧力 / 高速度撮影 / ガス化 / 最小着火エネルギー |
研究実績の概要 |
平成27年度には、単純な条件において現象を把握することを目的とし、HAN系低毒性1液推進剤の液滴を対象としたレーザー点火実験を実施した。まず、密閉型燃焼容器、ミラーやレンズなどの光学系、レーザーパワーセンサ、圧力センサなどを用意し、実験装置を構築した。 実験では、石英ガラス線(直径0.1mm)に推進剤の液滴(直径約1mm)を保持し、凸レンズを用いてレーザー光を絞り液滴に照射した。同時に、密閉燃焼容器内の圧力を測定するとともに、高速度カメラ(毎秒25万コマ)を用いて液滴の挙動を観察した。このとき、初期圧力は大気圧、初期温度は室温、燃焼容器内は窒素とした。 その結果、微小ながら燃焼容器内圧力の上昇が確認され、液滴の挙動にも変化が見られるレーザーエネルギーのしきい値を得た。この圧力上昇は、レーザーによって推進剤のガス化が生じていることを示している。また、レーザーのエネルギーの上昇にともない、圧力の上昇量の増加が見られ、ガス化する推進剤の割合が増加することもわかった。 一方、高速度カメラによる観察において、レーザーによって液滴が破壊され、液体が飛び散る様子は確認できたが、飛び散った後に燃える様子は確認できなかった。圧力の上昇量から燃焼によってガス化した量を推算したところ、液滴全てが燃焼しておらず、液滴の一部だけが燃焼したことを示す結果となった。 以上より、レーザーエネルギーがしきい値以上の場合にHAN系低毒性1液推進剤に着火でき、レーザーエネルギーを増加させることによってより多くの推進剤を燃焼させることができることが示唆された。ただし、液滴の全てを燃焼させるため、レーザーエネルギーだけではなく、初期圧力やレーザー光の焦点条件(位置および数など)、推進剤の組成などの別の要素を変更することが必要と考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、噴霧した推進剤を対象とした点火実験を実施することとしていた。しかし、実際に実験を行った結果、噴霧した推進剤への点火は条件(特に噴霧された液滴の位置とレーザー光の焦点位置の関係)を一定に保つことが困難であり、現象を正確に把握することが困難であった。そのため、計画を見直し、固定された液滴に対する点火実験を実施した。研究実績の概要の欄に示した通りであるが、現在、レーザーエネルギーのみをパラメータとした実験を一通り実施したところであり、点火可能な条件がおおよそではあるが把握できつつある。 進捗状況としては、前述の計画変更による遅れは少なくともあったが、現在までの成果を考慮すると、およそスケジュール通りという認識である。平成28年度末には、計画の通り、着火可能な条件を明らかにすること、およびHAN系低毒性1液推進剤のレーザー点火システムを提案することは可能であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度の成果を踏まえ、引き続き推進剤の液滴を対象としたレーザー点火実験を実施する計画である。これまでに、レーザーエネルギーをパラメータとして点火実験を行い、着火に必要なおおよそのしきい値を得たが、着火後に液滴全体が燃焼する条件の把握には至っていない。そのため、新たに初期圧力やレーザー光の焦点条件(位置および数など)、推進剤の組成などをパラメータとして同様のレーザー点火実験を実施する。また、着火の定量的な判定のため、実験後の燃焼容器内のガス分析などをこれまでの方法に追加して行う。これらの実験によって得られたデータを整理し、レーザー点火によってHAN系低毒性1液推進剤の着火可能な条件を定量的に示す。 また、実験による検討の結果を踏まえ、HAN系低毒性1液推進剤のためのレーザー点火システムについて検討を行い、実現可能なシステムを提案する。従来のスラスタシステムにレーザー点火を適用することが難しいと判断された場合には、推進剤供給システムや燃焼器などの点火システム以外の要素についても検討を行うこととする。
|