研究課題
本研究の目的は、将来の推進システムの有力候補のひとつであるレーザー核融合ロケットの推進原理として考えられている磁気スラストチャンバーについて、その動作原理とエネルギースケーリング則を構築するため、(1)プラズマの膨張とともに変化する磁場を可視化し、(2)プラズマの温度・密度・速度等のパラメータを局所的に計測することである。当該年度は、大阪大学のEUVデータベースレーザーを用いて、上記2通りの計測を試みた。(1)の磁場計測については、イオンエンジンが出力するXe+イオンの計測のため、アレイ状に配置したチャージコレクタとその計測システムを構築した。また、イオンエンジンからのイオンのみを検出するため、初期の時間に計測器に到達するレーザー生成プラズマをチャージコレクタに印加する電圧で排除し、パルス状に電圧を印加するシステムを構築した。これらは九州大学で予備実験を行った後、大阪大学で実験を行ったが、本実験時に電圧印加のシステムの不具合により計測までは至らなかった。(2)については、新たに高波長分解能の分光器を作成してレーザートムソン散乱計測を行い、局所的なプラズマパラメータの計測に成功した。その結果、磁場をの有無によって、温度・密度に大きな違いは無かったが、プラズマのドリフト速度に明らかな違いを計測した。この結果は、磁気スラストチャンバー内の比較的低密度なプラズマでの計測も可能であることを示すと同時に、磁場によるプラズマの排出が機能していることを示している。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたイオンバックライト計測は、計測器の不具合により本実験では計測まで至らなかったが、イオンの検出とパルス状印加電圧による動作を確認することができた。一方レーザートムソン散乱によるプラズマ計測には成功し、流速の変化から、推力発生原理が動作していることを確認できた。またこの結果から、今後はより大型レーザーを用いた実験へについてもレーザートムソン散乱を用いた計測を行うことができる。一方、予想しないほど真空チャンバーや実験装置からの反射光が大きく計測精度が悪いなど課題も見つけることができた。今年度はこれらの計測精度を上げると同時に、より高エネルギーのプラズマを用いた実験を行うことで、エネルギースケーリングの確立と、数値シミュレーションとの比較・検証をすすめることができると考えている。
当該年度の研究から、磁場の計測システムの動作原理の確認と、レーザートムソン散乱計測の構築とその有用性を確認できた。今後は、これら2通りの計測システムを用いて、さらに計測精度を上げる事で、数値シミュレーションによるプラズマ排出原理の確認、シミュレーション自体の検証を行う。さらに、今年度はエネルギーが10-100倍となる照射エネルギーの大型レーザー:激光XII号を用いて、プラズマの運動エネルギーを上げ、昨年度構築した計測システムを用いることで、推進システムである磁気スラストチャンバーのエネルギースケーリング則の確立を試みる。一方、数値シミュレーションと実験とは現在大きな差異がある。現状は、レーザー生成プラズマを輻射流体計算で、磁場とプラズマの相互作用をハイブリッドシミュレーションで計算しているが、初期のプラズマ生成時に磁場を考慮していないことが原因の1つとして考えられる。つまり、現状の輻射流体シミュレーションでは、磁場と相互作用せずにプラズマが膨張してしまうという欠点があった。今後、大阪大学と共同で、磁場と輻射を考慮した輻射磁気流体シミュレーションを行うことで、再度実験との比較を行う。実験の改良として、レーザーの燃料球内面照射を試みることでプラズマの膨張速度を抑え、数値計算との比較を容易にする工夫を試みる。この手法は、将来のレーザー核融合炉でも検討されている間接照射方式に対応し、実機の設計を考える上でも有利である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Plasma and Fusion Research
巻: 11 ページ: 3406012-1-4
10.1585/pfr.11.3406012
Jouranal of Physics: Conference Series
巻: 未定 ページ: 未定
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