本研究では、海洋構造物の設計外力の算定に必須となる波浪の極値統計解析を扱っている。質・量ともに限られる日本近海の台風下の波浪データから、合理的な極値推定結果を導くには不確実性を体系的に扱うことが重要である。昨年度までに極値推定結果を定量的に評価できるLikelihood-Weighted Method(以下、LWM法)を開発した(Ocean Engineeringにて掲載済)。 同手法を利用し日本周辺海域の各海域の波浪データについて極値統計解析を実施し、極値波浪データベースが構築した。サンプル数が少ない海域においても極値推定を行うことが可能である一方で、定量的に評価された不確実性は大きく、また強い台風が通過した海域において極端に大きな極値を示している。結果として極値や極値分布のパラメタは空間的に滑らかな特徴を示していない。各海域の持つデータのみを解析に利用する手法では、推定結果がいくつかの強い台風の経路によって大きく左右されてしまうことがわかる。台風は様々な経路を取りうるため、少ないサンプルによるバイアスを受けた推定結果は合理的でないと考えられる。 この問題の原因は空間的な特性を考慮できないことが原因であると考えられる。そこで今年度の研究では、極大波浪を台風経路に沿って空間的な広がりを持って発生するものとして捉え、台風イベント中の時空間的な最大波浪とその空間分布特性に分離して扱う手法を提案した。イベント中の時空間的な最大波浪は従来の極値推定問題であるが、各海域分けた場合よりも大きなサンプル数が得られる。次に空間分布特性は台風経路による影響を無次元化して扱うこととする。このとき扱う問題は内挿問題であり、外挿を必要とする極値推定よりも高い精度が期待できる。これにより極値波浪の不確実性についても極値波浪についても空間的に滑らかな推定結果を得ることができた。
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