本研究では、複数の船舶と見合いが生じた状況において適切な避航針路を決定することを目的として、実際の避航に基づく船舶間の衝突危険度と避航開始時機を定量的に表現する手法を構築した。 平成27年度の実施事項を以下に示す。複数船舶を対象とした避航の特徴を分析するため、AISデータから避航時の各船舶間の衝突危険度を既往の指標により分析した結果、最も危険が高いと評価された船舶は実際の避航対象とは異なる船舶となる場合があった。そのため、実際の避航に即した衝突危険度を評価する手法を構築することを目指した。AISデータから避航した時のデータ(避航ケース)を抽出し、複数の船を対象に避航船から保持船を望むコンパス方位の変化率(方位変化)と二船間の距離(相対距離)を変数として、二船間の衝突危険度を4段階で表現する衝突リスク判定基準を検討した。 前年度の結果をもとに、平成28年度では以下を実施した。 相対距離の二乗を避航船船長と単位時間あたりの相対距離変化量で割った無次元距離として表し、避航ケースの避航開始時機における無次元距離の分布を分析した。その結果、そのときの衝突危険度の程度により明確な違いを持った分布形状として表現でき、衝突危険度が高いときは早めに避航を開始することを示した。さらに方位変化と相対距離を二変数とする両対数グラフ上では、衝突危険度は直線の関係を保ちながら連続的に変化することを示し、船長や速力によらず定量的に船舶間の衝突危険度を評価する手法を構築した。新たに分析に用いた避航ケースとは別の海域のAISデータから避航ケースを抽出し、二変数平面上に重畳したところ、避航後は安全な状態を保って避航を開始していたことから評価方法は妥当性であると考えられる。 本評価方法により、操船者の感覚と合致する避航対象船舶の決定と衝突危険度の程度により時間差をもつ避航開始の時機を決定することができる。
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