核医学診断で最も用いられているテクネチウム-99mはモリブデン-99の子孫核種であり、海外からの輸入に頼っている。しかし、輸入に際して供給が安定しないことから、モリブデン-99の国産化が進められている。そのうちのひとつとしてモリブデン-100の中性子照射によりモリブデン-99ならびにテクネチウム-99mを得る方法が試みられている。本研究では、この収率を挙げるために、材料となるモリブデンのナノ粒子化を目的として研究を行った。実験では、リポソーム内部にモリブデン酸イオンを封入してカルシウムイオンを加えることで、リポソームの表面でナノ粒子を得る手法を採用した。 前年度では、リポソームの組成が粒子生成に与える影響を検討し、アニオン性リン脂質およびコレステロールの含有量を変えたときのリポソーム表面で生成するモリブデンナノ粒子の影響を検討し、リポソーム組成の最適化を行った。本年度は最適化したリポソームを用いて、生成物の粒径に対する諸条件の影響を検討し、条件の最適化を行うとともにリポソーム表面で起こるナノ粒子生成メカニズムの解明を行った。 まず、カルシウムイオン濃度の寄与を検討した結果、カルシウムイオン濃度が20mMを超えるとリポソームが凝集し、これにともない生成物も粒系が大きくなることが分かり、テンプレートの凝集挙動がナノ粒子生成に重要な要因であることが分かった。そこでカルシウムイオン濃度を1mM程度に減らすとリポソームの凝集が抑制された。この条件で得られた生成物をウラン染色を用いた透過型電子顕微鏡により観察すると、リポソーム表面に10nm程度の粒子が生成していることが明らかとなった。 さらに、溶液中の未反応のモリブデン濃度を誘導結合プラズマ質量分析により定量した結果、反応時間5分程度で8割を超えるモリブデンが溶液から除去されていることが示され、本手法の有効性が確かめられた。
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