研究課題/領域番号 |
15K18319
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山路 哲史 早稲田大学, 理工学術院, 専任講師 (00571704)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 事故耐性燃料 / 燃料ふるまい解析 / FEMAXI-7 / 粒子法 / MPS法 / 固液相変化 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は以下である:(1) 通常運転時及び異常過渡変化時におけるATFふるまい解析(2)溶融ATF挙動のMPS法による計算機実験。 研究目標(1)の達成に向け、H28年度は軽水炉燃料ふるまい解析コードFEMAXI-7の高度化により、従来のFEMAXI-7では不可能であった照射に伴う被覆管のスエリング(照射による肉厚方向への膨張)を解析できるようにした。このため、被覆管の熱膨張解析モジュールを改変し、新たに中性子照射量(フルエンス)の依存項を加えた。SiC被覆管を例に実施した試解析では照射スエリングを無視した従来解析モデルを用いると、燃料温度を過大評価することが明らかになった。 研究目標(2)の達成のためには溶融物の物性および溶融時の初期条件に応じた、原子炉圧力容器(RPV)内流路の閉塞の有無、RPV外の原子炉格納容器(PCV)床面に放出された溶融物の広がり挙動、さらに床面のコンクリートとの反応(MCCI)による床面の浸食を機構論的に予測するための課題を明らかにする必要がある。そこでH28年度は過去に米国および仏国で実施された流路閉塞に関わるXR2実験、PCV床面の溶融物広がりに関わるVULCANO実験、PCV床面コンクリートの浸食に関わるSURC実験を対象にMPS法による解析を実施し、これらの機構論的な予測のための課題を明らかにし、それぞれ国際会議(口頭発表および査読付きProceedings)にて発表した。これらの研究から、MPS法の解析に用いる溶融物の流入境界、解析に用いる粒子径(解像度)、溶融物の流動停止に寄与する溶融物の凝固現象、溶融物とコンクリート等との界面に生じるガスが界面熱伝達率におよぼす影響の考慮が重要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はFEMAXI-7コードの整備と基礎モデルの検証と燃料ふるまい解析、およびMPS法による溶融物挙動解析コードの整備と計算機実験から構成される。前者については、当初の計画通りに進捗しており、H27年度までに実施したFEMAXI-7の基礎解析モデルの検討と解析結果の妥当性検証の継続に加え、H28年度はFEMAXI-7の高度化を図り、これまでFEMAXI-7の解析では不可能であった被覆管の照射に伴うスエリングのモデル化に成功した。事故耐性燃料用被覆管の候補材料であるSiCを対象に試解析を実施し、被覆管のスエリングが燃料ふるまいにおよぼす影響を妥当に評価できていることを示した。 一方、後者の進捗は当初の計画をやや上回った。H28年度の当初の計画はMPS法による原子炉制御棒案内管流路等で金属溶融物が凝固し、流路を閉塞する機構を検討することであったが、当初予定した検討は予定通り成果をまとめ国際会議(査読付Proceedings)で発表した。さらに、同現象の後に生じることが予想される原子炉圧力容器(RPV)から格納容器(PCV)床面に放出される溶融物の広がり挙動および溶融物と床面コンクリートとの相互作用(MCCI)のMPS法による機構論的な解析のための課題を明らかにした。これらの成果をそれぞれ国際会議(査読付Proceedings)で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
ATFが取りえる主要な状態(通常時、異常な過渡変化時、溶融事故時)のマルチスケールな挙動理解からATF導入のための要求や課題を明らかにするため、2017年度はこれまでに整備した解析コード(FEMAXI-7)を用いた異常な過渡変化時のふるまい解析を行う。原子力安全・保安院によりかつて取りまとめられた「高燃焼度燃料照射確証」を参考に、沸騰水型軽水炉の出力過渡事象を模擬した解析を行い、ATFの異常な過渡変化時のふるまいを明らかにする。特に燃料中心温度とペレット-被覆管相互作用(PCMI)による負荷に着目し、燃料中心溶融に相当する許容最大線出力密度と、被覆管の破損限界の目安として考えられる被覆管の1%塑性歪限界を予測する。 ATFが溶融した際の影響は、炉心-原子炉圧力容器(RPV)下部プレナム間での金属溶融物の挙動およびそれらの凝固に伴う流路閉塞に影響するが、H28年度までに、MPS法による解析では流入境界と解析に用いる粒子径の選定が解析結果に与える影響が大きいことが明らかになっている。そこでH29年度は流路内の溶融物凝固距離が測定されているより単純な実験(e.g., EPRI-3実験)とMPS法の解析の比較等から適切な溶融物の流入境界条件と粒子径の選定方法を検討し、制御棒案内管内流路の閉塞解析に反映させる。過去の実施されたMPS法の解析は二次元体系で実施されていたたが、流路内の溶融物の流動と凝固は溶融物の体積と伝熱により熱移動が生じる表面積の関係が重要となる。また、二次元体系では、制御棒案内管のような複雑な流路をモデル化できない。そこで、本研究では三次元体系で実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では2016年度中に国際会議にて成果発表するために旅費を計上していたが、成果のより効果的な発信の観点から発表する会議を再検討し、2017年度に開催される国際会議で発表することとした。このため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画していた実施内容に加え、当初の計画では2016年度に発表を予定していた成果を2017年度に開催される国際会議(WRFPM2017等)で発表する。
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