研究実績の概要 |
CRISPR/Cas9を用いたin vivoゲノム編集を介した遺伝子治療法を実践するために、脊髄小脳失調症1型(SCA1)のモデルマウスであるB05を対象とした治療実験を行った。まず、当初の計画通り、化膿連鎖球菌由来のSpCas9を用いて実施し、治療効果をRotarodによって追跡した。しかしながら、治療効果は確認できなかった。SpCas9は遺伝子サイズが大きく、プロモーターとSpCas9のみで、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターのパッケージング限界に極めて近いサイズとなってしまう。このため、発現を安定化させるためのWPRE配列等を付加できない事から、SpCas9の発現量が極めて低いことが予想された。実際、免疫染色でSpCas9の発現を確認したところ、ほぼ発現がみられない事が明らかとなった。 このため、近年報告された遺伝子サイズの小さい黄色ブドウ球菌由来のSaCas9を使用した治療実験を実施することとした。SaCas9はSpCas9とPAM配列が異なるため、最適なgRNAの再選定を行い、再度AAVベクターを作成した。これを用いてB05を対象としたin vivo ノックアウトによる遺伝子治療を試みたが、治療効果が認められなかった。また、治療を試みたマウスからゲノムDNAを抽出し、ゲノムシークエンスを実施したが、期待された領域に対するゲノム編集は確認できなかった。現在、トリプルCRISPR法(Sunagawa et al., 2016)などの導入により、ゲノム編集効率を上げる事などを検討中である。 本研究そのもに対する成果は現状では得られていないが、一方で、29年度の研究期間中にAAVを用いた関連研究計6報を国際誌に報告した。
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