研究課題/領域番号 |
15K18332
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菅谷 佑樹 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00625759)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経新生 / 歯状回 / 記憶 |
研究実績の概要 |
げっ歯類やヒトでは、海馬歯状回顆粒下層において活発な神経細胞新生が生涯続く。歯状回は場所の情報を表現している領域であることから、新生顆粒細胞も空間情報の維持、想起や消去に関連していると考えられるが、具体的にどのように情報を表現しているのかについては現時点で全く明らかになっていない。その理由は、これまでの電極記録による細胞活動の記録では成熟顆粒細胞と新生顆粒細胞の活動を明確に区別できなかったからである。本研究は細胞の活動をイメージングすることにより、歯状回の新生顆粒細胞の活動パターンを記録し、特に記憶の消去における役割を明らかにすることを目的としている。H27年度は新生神経細胞特異的にカルシウムインジケーターを発現させたマウスを作出した。また、新生細胞ではなく成熟細胞の活動をイメージングするために、アデノ随伴ウイルスにより歯状回の興奮性細胞全てにGCaMP6またはG-CaMP8を発現させたマウスも作出した。それらのマウスの海馬歯状回直上にレンズを埋め込み自由行動下で歯状回の新生神経細胞と成熟神経細胞の活動を記録することに成功した。これまで自由行動下でマウスの新生顆粒細胞の活動を記録した報告はなく、極めて画期的な成果である。次にこれらの動物を用いて、場所依存性恐怖条件付け、および音依存性恐怖条件付けを行い、条件付けを行った場所や音に暴露したときの新生および成熟顆粒細胞の活動を記録した。また、条件付け記憶を消去中の細胞活動の記録にも成功した。現時点で解析にほぼ十分な個体数を得ており、次年度以降は詳細な解析を行うとともに、光遺伝学的に細胞活動を操作した場合の個体の行動の変化も明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた歯状回の新生および成熟顆粒細胞の自由行動下におけるカルシウムイメージング、恐怖条件付け記憶の形成時および消去時のカルシウムイメージングはすべて予定通りに進展しており、すでに解析に十分な個体数もそろいつつある。H28年度の課題のために新生神経細胞特異的にチャネルロドプシンを発現するマウスの作出も開始しており、計画通りに進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度はこれまでに記録した細胞活動と動物の行動を詳細に解析し、新生顆粒細胞の情報表現を明らかにする。また、新生神経細胞特異的にチャネルロドプシンを発現するマウスを用いて、新生細胞特異的に活動を変化させたときの記憶学習への影響を検討する。具体的には、音依存性恐怖条件付け中または消去課題中に、海馬歯状回に青色光を照射し、新生顆粒細胞を活性化させる。新生細胞がそれぞれの行動課題中に活性化することで記憶の想起または消去が促進されるかどうかをすくみ行動の時間で判定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想以上にレンズ埋め込み手術や顕微鏡設置手術の手技が上達し、光学部品の再利用も行えたため、必要な物品の量が減ったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
現在の動物の手術ペースから考えて、H28年度に行う予定である光刺激実験で光刺激用のプローブが足りなくなる可能性がある。また、当初のGCaMP3マウスだけでなく、性能が改善されたカルシウムインジケーターを発現するマウス(G-CaMP8マウス)も使用しているため、それらのマウスの飼育費用もかかる。これらの使途に使用する予定である。
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