げっ歯類やヒトでは、海馬歯状回顆粒下層において活発な神経細胞新生が生涯続く。歯状回はエピソード記憶を貯蔵している領域であることから、新生顆粒細胞もエピソード記憶の維持、想起や消去に関連していると考えられるが、具体的な活動はほとんど明らかになっていない。本研究は自由行動下のマウス海馬歯状回の新生顆粒細胞の活動パターンを、微小顕微鏡を用いたカルシウムイメージング法を用いて記録し、特に記憶の想起や消去における役割を明らかにすることを目的とした。 マウス歯状回顆粒細胞にカルシウムインジケーターを発現させ、場所および音依存性恐怖条件付け記憶の想起時の新生顆粒細胞と成熟顆粒細胞の活動を記録した。新生顆粒細胞の活動は細胞分裂後6週で記録した。また対照群として恐怖条件付けを行っていない群の顆粒細胞の活動も記録した。場所依存性恐怖条件付け記憶の想起時には、行動に伴う顆粒細胞の活動の変化がみとめられ、成熟顆粒細胞では行動に伴って活動が著しく低下したが、新生顆粒細胞は成熟顆粒細胞と比較して活動の減少が少なかった。 次に、成熟顆粒細胞の活動変化と行動の因果関係を明らかにするため、Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drug (DREADD) を歯状回興奮性細胞に発現させ歯状回の活動を増加させたところ、すくみ行動が減少した。先行研究で新生顆粒細胞は抑制性細胞を介して成熟顆粒細胞に再帰性の抑制性入力を与えていることが報告されていることから、新生顆粒細胞は成熟顆粒細胞の余分な活動を抑制することで記憶の想起を促進している可能性が示唆された。
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