本研究課題では、睡眠覚醒、痛みの知覚、自律応答などの行動発現時における青斑核ノルアドレナリン神経の活動パターンとその機能的役割について、自由行動する動物個体を用いて、神経活動の記録と操作の両方向からのアプローチによって詳細に解析することを目的としていた。そのためにまず、無麻酔下かつ無拘下の動物個体における行動発現時の青斑核ノルアドレナリン神経活動を検出する方法の独自開発を行った。ファイバーフォトメトリー法と呼ばれる神経活動記録法の独自開発を達成するために、まずは視床下部オレキシン神経特異的にG-CaMP6を発現させたマウスを用いて検討を行った。その結果、末梢へ侵害刺激を与えた際の、侵害刺激誘発オレキシン神経活動に伴うカルシウム応答を、G-CaMP6の蛍光変化により検出することに成功した。そこで、ドパミン-β-水酸化酵素(DBH)プロモータを用いてDBH神経細胞特異的にtTA(テトラサイクリントランスアクチベータ)を発現するDBH-tTAマウスの青斑核に、tTA依存的に遺伝学的カルシウム蛍光プローブ(G-CaMP6)を発現可能なAAVを感染させることで、青斑核ノルアドレナリン神経細胞にG-CaMP6を発現する動物を作成した。この動物を用いても、侵害刺激誘発ノルアドレナリン神経活動に伴うG-CaMP6蛍光変化を検出することに成功した。 続いて、機能的役割を解明する目的で、DBH-tTAマウスをTetO ArchTマウスと交配させ、ノルアドレナリン神経特異的にArchTを発現させたマウスを作成した。この動物の青斑核へ光照射を行い神経活動を抑制したところ、心拍の減少が確認できた。本研究により、青斑核ノルアドレナリン神経活動が心拍といった自律応答へ影響を与えていることが明らかとなった。
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