研究課題/領域番号 |
15K18338
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 洋光 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30705447)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 細胞生物学 / シナプス可塑性 / 抑制性長期増強現象 / エキソサイトーシス / エンドサイトーシス / GABA受容体 / 全反射顕微鏡 |
研究実績の概要 |
シナプス入力に応じて情報伝達効率が変化するシナプス可塑性は、記憶・学習の重要な細胞基盤と考えられている。これまで特に、海馬の興奮性シナプスの可塑的変化について、国内外を問わず多くの研究がなされてきた。その一方で、抑制性シナプス可塑性についての研究は大きく遅れている。抑制性シナプス伝達の異常は、てんかん、不安障害、うつ病、統合失調症などの精神疾患に関連していることが最近明らかになってきた。そのため、抑制性シナプス伝達機能の生理的意義は極めて深いと考えられる。そこで本研究は、最近構築した新可視化実験系に電気生理学的手法と1分子解析法を組み合わせて、抑制性シナプス可塑性の発現に際して、どのようなタイプの神経伝達物質受容体が、いつどのような動態でどれだけシナプスへ移動するのかを明らかにすることを目的とする。
平成27年度では、海馬の抑制性長期増強現象 (iLTP: long-term potentiation of inhibition) などのシナプス可塑性に着目し、そのiLTP発現に際して受容体の数がどのような動態で増加するのかを主に研究した。具体的には、中枢神経内の抑制性シナプス伝達を主に担うγ-Aminobutylic acid type-A 受容体 (GABAA受容体) の動態を観察した。そして、一部のサブユニット (γ2) を含むGABAA受容体が、抑制性シナプス後膜の足場タンパク質Gephyrinと共にiLTP 発現時に増加することを明らかにした。これにより、iLTPの発現メカニズムの解明が進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ラット海馬神経細胞を実験モデルとし、全反射顕微鏡を用いた独自の可視化実験系で、以下の4項目を研究する計画である。①異なるサブユニット構成のGABAA受容体数とGephyrinの経時変化解析、②エキソサイトーシスとエンドサイトーシスが起こる場所と受容体増減量の特定、③1分子レベルでの側方移動の可視化、④GephyrinのiLTP成立への寄与とGABAA受容体の動態全体像の把握である。
平成27年度では、主に研究項目①と②を実施した。①では、サブユニット構成の異なるGABAA受容体とGephyrinを緑色、赤色蛍光タンパク質で標識し、iLTP発現時における輝度変化を解析した。②では、GABAA受容体のエキソサイトーシスの観察を試みた。また、エンドサイトーシスの可視化技術を確立するために、グルタミン酸受容体を用いてその条件検討を行った。これら以外にも、iLTP並びに抑制性長期抑圧 (iLTD: long-term depression of inhibition) の誘導方法も構築したこと等から、計画は概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、主に研究項目③と④を実施する。③では、量子ドットを用いてGABAA受容体の側方移動を可視化し、iLTP発現前後での受容体動態変化を明らかにする。また④では、①から③における結果の統合的把握のために、必要によってはライブイメージングの他に、電気生理学的実験や1分子解析等を行う。また、エンドサイトーシスの可視化技術をGABAA受容体に適用する。本研究により、記憶・学習が成立する基礎過程の解明、及びシナプス伝達異常に起因する神経疾患の病態解明に貢献することを目指す。
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