| 研究課題/領域番号 |
15K18341
|
|---|
| 研究機関 | 大阪大学 |
|---|
研究代表者 |
揚妻 正和 大阪大学, 産業科学研究所, 特別科学研究員 (30425607)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
| キーワード | オプトジェネティクス / 光イメージング / 大脳視覚野 / 情報処理 / 神経ネットワーク |
|---|
| 研究実績の概要 |
脳は様々な外界の情報を処理し、認知・行動として表現する。中でも視覚情報は、我々ヒトを含む多くの動物にとって非常に重要な役割を担っている。近年、大脳皮質視覚野において、視覚情報依存的な課題遂行中では、課題の困難さや注意の度合いに応じた神経活動上昇、およびネットワーク同期性の変化などが報告されている。一方、抑制性神経は、一般にそのような神経ネットワーク情報処理に重要であることが知られる。そこで本研究では、この抑制性神経の役割に着目し、最新の光学的アプローチによる「神経活動の観察」及び「抑制性神経の活動操作技術」を応用して、課題遂行中のマウス脳内における視覚情報処理メカニズムを明らかにしていく。
本研究では、最新の光学技術をもとに、in vivo神経活動イメージング技術による神経活動の「観察」、および光遺伝学によるPV陽性神経細胞の「活動操作」を行い、神経回路ネットワークにおける情報処理（活動性、同期性の変化など）がどのようにして認知・行動に寄与するかを示す。また、PV陽性細胞がネットワークの過疎的変化に関与することを踏まえ、遺伝子コード型センサーの利点を生かした長期的な観察を行い、学習前後での神経活動観察を通して、ネットワークの過疎的かつダイナミックな変化を捉えることに挑戦する。
平成２７年度においては、これら光学技術を課題遂行中のマウスで利用可能となるように調整・最適化し、系の確立とデータの取得を推進してきた。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度はin vivo神経活動イメージング技術による神経活動の「観察」、および光遺伝学によるPV陽性神経細胞の「活動操作」のためのそれぞれの開発、確立を進めた。２光子顕微鏡は、もともとは光イメージング（観察）のためにのみ作られていた。そこで、光遺伝学（広範囲同時操作）を行うための新たな光学系をデザインし、対物レンズを経由した光刺激システムを導入した。これにより、長期的な観察でも常に再現性の高い操作を加えることが可能となり、学習の過程を観察する準備が整った。また、神経活動観察に適した学習の系の確立とそれにともなう顕微鏡下・頭部固定状況での観察装置の開発が完了した。行動実験の予備実験も進め、実際の脳活動観察における実験パラダイムを構築した。さらには、これらすべてをLabviewによって統合的に制御するシステムの構築を進めた。
これと平衡して、先行研究によって得られた視覚刺激情報のデータを用いて、様々な解析手法を導入した。例えば、機械学習アルゴリズムによる神経群活動からのdecoding技術を導入し、情報処理という観点からの評価を多角的に行うことが出来るようになった。
顕微鏡下で学習させるシステムの構築にむけた準備段階で、必要な装置が増えたため、それが準備出来次第、実際の記録に取り掛かれる状況である。したがって、計画は概ね順調に進展している。
|
| 今後の研究の推進方策 |
今後はそれらの装置を用いて実際の観察を体系的に推進し、大脳視覚野における情報処理に多様性をもたらせるメカニズム、及び共通のメカニズムのそれぞれの視点で観察を進め、統合的な理解に向けて進めていく。
これらにPV陽性細胞の操作を加え、注意や意思決定のメカニズムに関する役割を調べる。神経活動操作のためには、AAVを利用してArchTを発現させ、光依存的な活動抑制を行う。PV陽性細胞特異的な発現のために、Cre-loxシステムを利用する。同一神経回路における学習前後での定量的比較を行う。
さらには、学習依存的な課題と遺伝子コード型のセンサーによる長期的な観察とを組み合わせることで、学習前後の神経活動を比較していく。興奮性と抑制性の入力がバランスをとっていることが知られ、それはPV陽性細胞を介して可塑性的に制御されていることも示唆されている（Xue et al., Nature, 2014）。そこで、学習に伴ったネットワークの可塑的変化の可能性とPV陽性細胞の関与についても検討を進める。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
27年度に、行動解析を行い、その結果を基に測定装置を完成させ、神経活動観察を開始する予定であったが、行動解析の結果から制御プログラムの改良が必要となったため、計画を変更し、未使用額が生じた。
|
| 次年度使用額の使用計画 |
このため、測定装置の完成と神経活動観察を次年度に行うこととし、未使用額は測定に必要な計測機器と神経活動観察のための試薬等を購入する経費に充てることとしたい。
|
