研究課題
小脳登上線維シナプス刈り込みへのミクログリアの関与を検討するため、発達期の小脳皮質からミクログリアを欠落/不活性化させる操作を行い、刈り込みがどのように影響されるかを調べた。まず、生後6日目にクロドロン酸内包リポソームを小脳皮質に注入する実験を行った。その結果、クロドロン酸投与マウスでは、2本以上の登上線維が入力するプルキンエ細胞の割合がコントロールマウスよりも有意に高いという結果を得た。クロドロン酸投与によるミクログリアの除去は抗Iba1抗体を用いた免疫染色により確かめた。次に、ミクログリアの活性化を抑制するミノサイクリンを生後7-11日目に皮下注射する実験を行い、クロドロン酸投与実験同様に、刈り込みが障害されるという結果を得た。一方、クロドロン酸とミノサイクリンの投与を生後11日目以降で行った場合には刈り込みは正常であった。このことから、ミクログリアは生後6-10日目頃の刈り込みに選択的に必要であることが示唆される。ガラスキャピラリーを用いたクロドロン酸投与による脳損傷やミノサイクリンのブロードな薬理作用などが結果に影響する可能性を検討するため、ミクログリアの分化・維持に必須のcsf1rをIba1発現細胞で欠損する遺伝子改変マウス(Csf1r-cKO)を新たに作成して解析した。Iba1-creマウスは新潟大学・﨑村教授と阿部先生から分与して頂いた。Csf1r-cKOマウスでも登上線維シナプスの刈り込みに異常が認められた。刈り込みの異常は、生後12-14日目で既に顕著であり、生後2か月まで持続することも確かめた。上記3つの実験によって、ミクログリアが登上線維シナプスの刈り込みに必要であるという結果を得ることができた。これらの成果は、新学術領域研究「グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態」第2回夏の(国際)ワークショップおよび第38回日本神経科学大会で報告した。
2: おおむね順調に進展している
27年度には、登上線維シナプス刈り込みに対するミクログリアの必要性を複数の実験手法を用いて多角的に検討し、ミクログリアの必要性および関与の臨界期を明らかにすることができた。さらに、新潟大学・﨑村教授と阿部先生の協力を得て、ミクログリアを欠損する遺伝子改変マウスの作成も完了し電気生理学解析も実施した。さらに、ミクログリアがどのようなメカニズムで登上線維シナプスの刈り込みに寄与するのかを検討するため、作成したミクログリア欠損マウスを用いて登上線維シナプス伝達以外の興奮性シナプスおよび抑制性シナプスに変調がないかどうかの解析も行い結果が得られつつある。ゆえに、本研究課題はおおむね順調に進展している。
28年度は引き続き、ミクログリアがどのようなメカニズムで登上線維のシナプス刈り込みに影響を与えるのかを検討する。刈り込みが進行している発達時期の登上線維シナプスとミクログリアの形態を詳細に解析し、相互作用を形態学的に検討する。ミクログリアは貪食能を有するため、不要な登上線維シナプスを貪食することによって刈り込みに寄与する可能性が考えられる。そこで、刈り込み期に登上線維の一部を内包するミクログリアが認められるか否かについて特に着目して解析を行う。また、ミクログリアは脳内の不要な構造を貪食する以外にも、様々な生理活性物の産生と放出を介して周囲の細胞に影響を与えることが知られているので、ミクログリアが貪食以外の作用によって刈り込みに寄与する可能性も念頭においた解析も進めたい。初年度に作成したミクログリア欠損マウスを用いて、ミクログリア欠損によって登上線維シナプスを含む小脳皮質の回路発達がどのように変化しているかを電気生理学的に解析する実験をさらに推し進める。ミクログリア欠損によって機能が変化するシナプスが同定された場合には、そのシナプスの発達に関与するというという報告のある分子についてミクログリア特異的に欠損させるマウスを作成したり、候補分子をレスキューする実験を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Nature Communications
巻: Dec 10;6 ページ: 10090
10.1038/ncomms10090.