全反射蛍光顕微鏡を用いることで、細胞膜直下でシナプス小胞がどのように接着し、分子的な準備状態を経て開口放出に至るかを直接可視化することを目指して研究を行った。ラットやマウスの脳幹聴覚系カリックス型シナプスを標本とし、FM色素によって蛍光標識した個々のシナプス小胞の開口放出とその直前の動態をライブイメージングによって捉えることに成功した。シナプス小胞が開口放出に至るまでには放出部位への動員、放出への分子的準備を経る必要があるが、これらがどのような時間経過で生じるのかについて電気生理学的手法を組み合わせながら測定した。実験の結果、細胞膜直下に係留されたシナプス小胞のうち一部のみが放出可能な状態にあることが明らかになり、即時放出可能なシナプス小胞が枯渇した後の素早い再充填は、すでに膜直下にあったシナプス小胞が分子的準備を経て放出可能な状態に遷移することによってなされていることが示唆された。 また、同じくカリックス型シナプスにおいて開口放出された小胞タンパク質が小胞膜と共に回収される過程を可視化した。小胞タンパク質の一種であるシナプトタグミンをpH感受性色素によって蛍光標識することによって小胞内部にあるのか細胞膜表面に露出しているのかを識別し、電気生理学的手法によって測定した小胞膜の回収動態を比較した。実験の結果、シナプトタグミンの回収動態は刺激の強度に依存して変化することが分かった。さらに、開口放出関連タンパク質の一つであるMunc13-1を含むCa2+-CaM-Munc13-1経路を阻害すると、小胞膜の回収の時間経過に影響なくSyt2の回収の時間経過のみが遅くなることが分かり、小胞タンパク質を小胞膜と共に回収するための重要な分子経路を特定した。
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