研究課題/領域番号 |
15K18347
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
安田 正治 関西医科大学, 医学部, 講師 (90744110)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 背側縫線核 / ストレス / 単一細胞外記録 / 学習 |
研究実績の概要 |
まず我々は、選択学習課題遂行中のサルに対して、パブロフ条件付けで学習された正または負の条件刺激を提示し、条件刺激提示によってもたらされる情動による、学習への影響を調べた。その結果、負の条件刺激が提示される条件で、サルがより頻繁に誤った選択肢を選ぶ傾向が見られた。このことは、負の条件刺激提示によるストレスが学習過程に影響を与えていることを示唆する。次に我々は、ストレスがどのような脳内機構に基づいて学習に影響を与えているのかを調べるために、選択学習課題遂行中のサルにおいて、情動との関連が深いと考えられている背側縫線核からの単一細胞外記録を行った。これまでのところ我々は、行動の正誤を予測するような神経応答を示すニューロンを見出している。それらのニューロンの多くは選択刺激の提示後に応答を示し、誤った選択行動の直前により強い反応を示した。また、パブロフ条件下での正、負の情動に応じた継続的な反応パタンを、選択課題中においても引き続き保持するニューロンも見つかっている。こうした神経応答は、条件刺激の提示による、選択課題中の情動変化を神経活動レベルで示していると考えられる。今後、さらに多くのニューロンデータを集め、ストレス条件下での学習と背側縫線核との関係を明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進行状況がやや遅れている理由として、最適な課題条件を決定するのに予想していたよりも長い期間を要したためであると考えられる。本研究で行っている課題は、パブロフ条件付けで学習された条件刺激を選択学習課題遂行中に提示するというものであるが、条件刺激の提示そのものが課題遂行における妨害刺激となるため、条件刺激の最適な提示頻度を見出す必要があった。また、パブロフ条件付けで用いる負の無条件刺激の選定にも時間を要した。当初我々は負の無条件刺激として食塩水を用いていたが、選択学習に対する負の条件刺激の効果に再現性が見られなかったため、無条件刺激を眼球へのエアパフ刺激に切り替えて、再度パブロフ条件付けによる学習を行った。 また、サルの課題の学習速度が我々の期待を大きく下回っていたことも、研究の遅れの大きな要因の一つである。初めに条件刺激提示無しの条件下で、サルに選択学習課題を行わせたが、その学習に長期間を要した。さらにパブロフ条件付けを行う前の未学習の条件刺激を提示すると、サルの選択学習課題の成績は大きく乱れ、パブロフ条件付けによる学習前の安定したコントロールデータを集めるのに長期間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針であるが、当面は背側縫線核からの、単一細胞外記録を引き続き行っていきたい。そして、サルの行動と相関した反応を示すニューロンを多く見出すことにより、背側縫線核と、ストレス下での学習との密接な関わりを示すことができればと考えている。その際、ストレスによる負の情動を表す定量的な指標として、瞳孔径や心拍数を用いる。現在のところ、これらの値と負の情動との間には、弱い相関が認められているのみだが、引き続き学習を行っていくことで、こうした自律神経系による反応とサルの受けるストレスとの間に有意な関係性が見られるものと期待している。 これらの結果を得られた後、次に、ストレス下での学習が、背側縫線核をはじめとする脳内のどのような神経回路によって成り立っているのかを明らかにしたい。背側縫線核に数多く分布するセロトニンニューロンは、その出力を脳全域に送っているが、中でも最も強い投射先の一つが、脳深部に位置する大脳基底核である。大脳基底核は、価値学習に基づいた行動発現に重要な役割を果たすと考えられており、背側縫線核から大脳基底核への経路を特異的に破壊した場合に、サルのストレス下での学習にどのような変化が見られるのかを調べたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述の理由により研究に遅延が生じたことにより、当初計画していた数量の記録用電極の購入に至らなかった。また、神経回路同定や経路特異的な障害のための実験も行えなかったため、電気刺激装置やマイクロシリンジポンプの購入にも至らなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
追加の記録用電極、手術用薬剤などの消耗品のほか、学会発表などの出張費、使用中のソフトウェアのサポート、経路特異的な障害実験のための電気刺激装置やマイクロシリンジポンプ、受容体阻害剤などの購入を考えている。
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