研究課題/領域番号 |
15K18355
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田尾 賢太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 基礎科学特別研究員 (10708481)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電気生理学 / ドパミン |
研究実績の概要 |
代表研究者は、マウス腹側被蓋野 (VTA) のドパミン細胞を光遺伝学的に同定し、急性電気生理記録する手法を前年度までに確立している。本年度は、より多くのドパミン細胞から神経活動を記録するために、レーザーダイオード一体型のシリコンプローブ (ダイオードプローブ) をもちいた慢性電気生理記録実験を開始した。その結果、従来報告がなされていた外側VTAのみならず、内側VTAに位置するドパミン細胞もまた、古典的報酬条件づけ課題において報酬予測誤差を表現していることが明らかになった。これは、少なくとも報酬および報酬予測刺激に対して、VTAのドパミン細胞はその局在によらず均一な応答を示すことを示唆している。内側VTAには皮質や扁桃体など多様な領域へ投射するドパミン細胞が存在することを考慮すると、ドパミン細胞の報酬表現は、その投射先に非依存であることが予想される。 また、シリコンプローブの二次元的なチャンネル配置を活用して、VTAの外側に位置する黒質緻密部 (SNc) のドパミン細胞から神経活動を記録することにも成功した。SNcのドパミン細胞もまた報酬に応答するものの、VTAにおいて観察されるような報酬予測による神経活動の減算は確認されなかったことから、SNcおよびVTAではそれぞれ独自の報酬表現がなされていると推測される。 さらに、前年度までに確立した「舐め分け」課題では訓練することが困難であった短期記憶課題を実施するために、音提示を弁別刺激として、2本のレバーをもちいたオペラント行動課題を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中脳ドパミン細胞からの電気生理記録および行動課題開発については、当初の計画以上に進展が見られた。一方で、PFCからの記録実験については、進捗が遅れている。本年度は、VTAドパミン細胞の光遺伝学的刺激、PFCからの多細胞電気生理記録、そしてPFCへのドパミン受容体阻害薬の局所投与を同時に実施することを試みた。しかしながら、薬液注入や電気生理記録の条件を最適化することに至っておらず、安定した実験系の確立には至っていない。 以上を総合的に勘案すると、着目している脳領域は当初の計画どおりではないものの、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1. VTAからの記録実験 軸索投射を逆行性に標識可能なウイルスであるイヌアデノウイルス (CAV) をもちいて、PFC投射ドパミン細胞を特異的に標識する。これらの細胞を光遺伝学的に同定したうえで、古典的報酬条件づけ課題またはレバーをもちいた聴覚弁別課題を遂行中のマウスにおいて、多細胞電気生理記録を実施する。 2. SNcからの記録実験 SNcのドパミン細胞にChR2を発現させ、古典的報酬条件づけ課題を遂行中のマウスにおいて、多細胞電気生理記録を実施する。 3. PFCからの記録実験 前年度同様、非NMDA型グルタミン酸受容体阻害薬であるNBQXやD1受容体阻害薬であるSCH23390、D2受容体阻害薬であるracloprideを電極近傍に曲祖投与することで、ドパミン神経週末の光刺激による神経活動調節の由来を薬理学的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題で使用しているシリコンプローブは海外からの調達に数ヶ月を要する消耗品であり、本年度後半に予定していた購入分が会計年度をまたぐ可能性があったため、該当分を次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分はすべてシリコンプローブの購入に充当する。
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