衝動性制御の以上は統合失調症、大うつ病、注意欠陥多動性障害、摂食障害などをはじめとする精神疾患で共通してみられる中間表現型であり、暴力や問題行動の一因になっている。さらに精神疾患患者の主な死因は自殺であり、これも衝動性制御の異常が原因の一つであると考えられる。これら問題を解決するために衝動性制御の神経生物学的基盤の理解は非常に重要であると考える。申請者らの研究により内側手綱核を欠失させたマウスは様々な認知機能の異常を示すとともに著しい衝動性制御の異常が観察された。これらのことにより申請者らは腹側内側手綱核及びその主な投射先である脚間核に着目し、その衝動性制御における役割を解明しようと研究を行った。 内側手綱核に強く発現しているcAMP-GEFII(CG2)という遺伝子に着目した。cAMP-GEFII(CG2)はPKAとは違ったcAMPの下流標的分子であり、内側手綱核に特に強く発現している。またこの遺伝子のアミノ酸置換を伴う変異が自閉症スペクトラムの患者から発見されたことにより、この遺伝子の機能異常と精神疾患との関連が示唆された。これらの知見をもとにCG2の内側手綱核特異的ノックアウトマウス(Hb-cKO)を作成し、内側手綱核のCG2が衝動性制御に関してどのような役割を果たしているか明らかにするために衝動性を測る行動実験を実施した。このHb-cKOマウスはOpen Fieldで活動量がコントロールに比べ亢進していた。また5選択反応時間試験におけるお手付き反応や遅延時間に対する報酬価値の減少関してはコントロールとの間に有意な差は見いだせなかった。これらの実験結果より、内側手綱核のCG2は運動衝動性の制御に役割を果たしていることが示唆された。
|