研究実績の概要 |
本研究の目的は、嗅周囲皮質(PER)から外側嗅内皮質(LEC)を介した海馬への感覚情報伝達経路を明らかにすることである。海馬-嗅内皮質脳スライス標本を用いた光計測実験から、PERから海馬への情報伝達において嗅内皮質深層が重要な役割を果たすことが報告されている(Koganezawa et al., 2008)。しかし、嗅内皮質から海馬への投射は主に表層(Ⅱ/Ⅲ層)に起始し、深層(Ⅴ層)からの直接投射は非常に弱いことが知られている。 そこで、嗅内皮質深層から海馬への投射経路を明らかにするため、本年度はCtip2陽性細胞が分布するLECⅤb層が形成する局所回路構造を調べた。2つのウイルスベクターを用いてLECⅤb層ニューロンを選択的に標識したところ、Ⅴb層ニューロンが海馬投射ニューロンが分布する嗅内皮質表層に軸索を伸ばしていた。また、狂犬病ウイルスベクターを海馬に注入したところ、LECⅤb層ニューロンが経シナプス的に逆行性標識された。この結果は、Ⅴb層ニューロンがLEC表層を介して海馬に投射していることを示唆している(日本神経科学大会 2016, LBA3-023)。さらに、PERへの順行性トレーサー注入によりLECⅤ層で標識軸索が確認されたことから、LECⅤb層ニューロンを介した海馬への入力回路が感覚情報伝達に関与していると考えられる。 海馬への情報伝達経路の全容を明らかにするためには、本研究で明らかにしたLECⅤb層経路に加え、LEC表層ニューロンが形成する局所回路、具体的にはカルビンジン陽性ニューロンが形成する回路(日本神経科学大会 2016, P3-201; 北米神経科学大会 2016, 84.13)との相互関係を明らかにしていくことが今後求められる。
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