本研究の目的は、睡眠覚醒における機能が不明確である前脳基底部のBST/POAに注目し、その睡眠覚醒制御メカニズムを明らかにすることである。前年度の検討により、アデノ随伴ウイルスベクターを用いてジフテリア毒素受容体をCre依存的にマウスBST/POAのGABA作動性神経に発現させ、さらにジフテリア毒素の全身投与によりCre発現神経を特異的に欠損させることに成功した。本年度はBST/POAのGABA作動性神経欠損マウスの睡眠覚醒への影響を解析した。定量的に睡眠覚醒を解析するため、マウスの脳に電極を設置し、脳波測定を行った。同時に筋電図の測定・赤外線を使った自発運動活性の測定・ビデオ撮影なども行い、脳波の振幅・周波数成分などと照らし合わせることにより、マウスの行動を覚醒・ノンレム睡眠・レム睡眠の3種類に判別した。BST/POAのGABA作動性神経欠損マウスは次のように作製した。まず、ジフテリア毒素受容体をCre依存的に発現するアデノ随伴ウイルスベクターを作製し、それをGABA作動性神経特異的にCreを発現するvesicular GABA transporter (VGAT)-CreマウスのBST/POAの両側に微小量注入した。数週間のジフテリア毒素受容体発現に必要な期間を経た後、対照としてまずジフテリア毒素投与前の睡眠量を測定した。その後ジフテリア毒素を複数回投与し、GABA作動性神経を特異的に欠損させた。GABA作動性神経の欠損は、行動実験後に組織学的に解析した。BST/POAにおけるGABA作動性神経の欠損は、期待通りの睡眠覚醒の変化を起こした。今後さらに詳細な解析を行う予定である。
|