研究課題/領域番号 |
15K18362
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山田 真弓 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50583457)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 神経幹細胞 / 側脳室周囲 / 神経新生 / RNAシークエンス / 遺伝子発現プロファイル / 成体脳 |
研究実績の概要 |
中枢神経系において、神経細胞は胎生期から出生後しばらくの時期にのみ、神経幹細胞から生み出されると考えられてきた。しかし、最近の研究によって、ヒトを含めたほ乳類の成体脳においても、側脳室周囲の脳室下帯や海馬歯状回といった特定の領域では神経幹細胞が存在し、神経新生が継続的に続いていることが分かってきた。このような神経新生は、記憶・学習などの高次脳機能に関与することが明らかになってきている。本研究では、発生・発達に伴う神経幹細胞の性質の変化を明らかにするため、マウスの胎生期と成体期における遺伝子発現プロファイルの解析を行う。さらに、神経新生に必要な遺伝子の探索・機能解析を行なう予定である。 神経幹細胞において蛍光タンパク質を発現するマウスの作製(あるいは入手)を行なった。FACSにより蛍光タンパク質を発現する神経幹細胞を回収して、RNAシークエンスを行った。胎生期の終脳脳室帯と成体若齢期(2-3ヶ月齢)の側脳室周囲の遺伝子発現を比較して、2倍以上発現変動のある遺伝子のリストを作成した。さらに、既存のデータベースや文献と比較して、神経新生に関与し得る遺伝子のリストを作成した。同様に、成体老齢期(12ヶ月齢以上)のRNAシークエンスを行なうために、解析に必要なマウスの準備を行なった。 今後、神経新生に関与し得る候補遺伝子の機能解析を行なうために、レトロウイルスやレンチウイルスベクターの作製を行なった。ウイルスを培養神経幹細胞に感染させて目的遺伝子の過剰発現を行い、神経新生への影響を観察できる実験系を確立した。さらに生体内での機能解析を行なうために、脳内にウイルスインジェクションする実験系のセットアップを行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、各ステージにおいてRNAシークエンスを行なうためのマウスの準備が律速段階となる。胎生期の神経幹細胞を採取するためには数匹の遺伝子組換えマウスがいれば十分であるが、成体期の解析には数十匹の遺伝子組換えマウスが必要となる。さらに成体老齢期の解析を行なうためには、長い飼育期間が必要となる。今年度は解析予定のすべてのステージのマウスの準備を計画的に行なうことができた。さらに、予定しているRNAシークエンスの半分を終えることができた。読み終えたRNAシークエンスについては、既存データベースや文献を参考にしながら解析を進めている。現在、研究推進に必要なマウスを引き続き飼育中なので、来年度は残りのサンプルのRNAシークエンス、解析をすぐに行なうことが可能である。さらに、神経新生に関与する候補遺伝子の機能解析を行なうための実験系の準備も順調に行なうことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
胎生期から成体期において、神経幹細胞の遺伝子発現プロファイルを作成する。各ステージにおける遺伝子発現を比較し、発現変動が大きい遺伝子の中から、特に成体脳において神経新生に関与する遺伝子候補を選択する。さらに、real-time RT-PCRやin situ hybridizationなどにより、発現を確認し候補を絞る。培養神経幹細胞などを用いて、候補遺伝子の機能解析を行う。将来的には、候補遺伝子のfloxマウスを作製し、神経幹細胞においてCreERT2を発現するNestin-CreERT2マウスやAscl1-CreERT2マウスとかけ合わせることによって、成体新生ニューロンにおけるコンディショナルノックアウトマウスを作製し、機能解析を行いたい。 成体の神経幹細胞の大部分は休眠状態にある。休眠状態の神経幹細胞の一部が活性状態になり神経新生が引き起こされる。これまで成体の神経幹細胞が、休眠状態から活性状態へと変化する様子やメカニズムについてはほとんど明らかにされていなかった。そこで、FACSで採取した成体の神経幹細胞を培養し、経時的な変化をタイムラプス顕微鏡で観察したい。成体の神経幹細胞を培養した場合、休眠状態から活性状態になるには、2週間程かかることが報告されている。そこで、RNAシークエンスで得られた候補遺伝子を強制発現させたり、発現抑制した時の変化についても観察する。 これらの解析を通して、生後・成体脳の神経幹細胞の性質を制御するメカニズムを明らかにする。さらに、生後脳・成体脳における神経幹細胞の性質を制御するメカニズムを解明することによって、成体期で見られるアルツハイマー病などの神経疾患の機能改善に貢献することが期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
成体期の遺伝子発現プロファイルを行なうためには、数十匹の遺伝子改変マウスが必要となる。解析に必要なマウスの準備が当初の予定より遅れたため、初年度に予定していたRNAシークエンスの一部を次年度に行なうことにした。そのため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究推進に必要なマウスの準備を無事に行なうことができたので、次年度はこれらのマウスから採取した神経幹細胞を用いて、RNAシークエンスを行なう。この解析は、次年度使用額を用いて行なう。
|