近年の研究によって、ヒトを含めたほ乳類の成体脳においても、側脳室周囲や海馬歯状回といった特定の領域では神経幹細胞が存在し、神経新生が継続的に続いていることが分かってきた。このような神経新生は、記憶・学習などの高次脳機能に関与することが明らかになってきている。実際に、成体において神経新生を阻害したマウスでは、記憶の長期保持能が野生型マウスよりも著しく低下した。このように生後発達期から成体における神経新生が適切に継続されるためには、神経幹細胞の性質が厳密に制御されている必要がある。本研究では、胎生期、生後発達期、成体期における神経幹細胞の遺伝子発現プロファイル解析を行い、特に成体脳において神経幹細胞の性質を制御するメカニズムを明らかにする。 発生・発達・加齢に伴う神経幹細胞の性質の変化を明らかにするため、胎生期や成体期における遺伝子発現プロファイリングを行なった。神経幹細胞において蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックマウスを作製し、FACSにより神経幹細胞を回収し、RNAシークエンスを行った。胎生期の終脳脳室帯と成体期の側脳室周囲の遺伝子発現を比較して、大きく発現変動する遺伝子のリストを作成した。その中で、既存のデータベースや文献と比較して、神経新生に関与し得る遺伝子を選択することができた。さらに、神経新生に関与することは報告されていないが、加齢に伴い増加あるいは減少する遺伝子を抽出することもできた。 また、選び出した候補遺伝子の機能解析を行うために、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスベクターの作製を行なった。ウイルスを培養神経幹細胞あるいは初代神経培養細胞等に感染させ、候補遺伝子の過剰発現を行い、神経新生への影響を観察できる実験系を確立した。さらに脳内での機能解析を行なうために、海馬歯状回にウイルスインジェクションする実験系のセットアップも行なった。
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