研究課題/領域番号 |
15K18363
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
北澤 彩子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (10535298)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大脳新皮質錐体細胞 / 海馬CA1錐体細胞 / 細胞移動 / 異所的移植 / 子宮内胎児脳電気穿孔法 (IUE) / Time-lapse imaging / 電子顕微鏡観察 |
研究実績の概要 |
本年度は異所的移植の再現実験を行うとともに移植された細胞の移動方向の定量化、また昨年度確立することが出来た電子顕微鏡観察用の資料作成方法を用いたvaricosityの詳細な観察を行うことで、大脳新皮質とCA1錐体細胞の発生時の移動様式の違いについて、解明することを目的としている。 大脳新皮質とCA1領域には細胞の形状や放射状グリア繊維の密度などの違いがある一方で、varicosityには大脳新皮質のleading processと同様にadherent junctionが存在することを電子顕微鏡観察により見いだした。また、大脳新皮質の細胞移動にN-cadherinが必須であることは既に知られているが、ドミナントネガティブ体をIUEによりCA1に導入すると、大脳新皮質と同様に移動が阻害された。time-lapseによる移植実験は再現性を得ることが出来、かつ定量結果により、CA1に移植された大脳新皮質細胞は大脳新皮質方向へ、大脳新皮質に移植されたCA1細胞はCA1方向へ移動する傾向があることを明らかにした。また、in uteroの条件下において大脳新皮質に移植された場合、Time-lapse imagingの結果と同様にCA1由来細胞はVZに留まったのに対し、大脳新皮質由来細胞はpia側に存在することが明らかになった。移動中の大脳新皮質由来細胞が大脳皮質で1-2本の先導突起を伸ばすのに対し、大脳新皮質に移植されたCA1細胞は、移植された場所であってもCA1のMAZで観察されたように多くの先導突起を一度に伸ばしていた。 以上の結果から、大脳新皮質とCA1錐体細胞の移動には様々な共通点があるが、お互い異なる環境に移植された場合本来の場所での移動形態を維持し、移植された場所に適応しないという可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、移植実験における再現性実験とその定量、さらに電子顕微鏡によるvaricosityの観察を計画していた。Time-lapse及びin uteroでの異所的移植においては再現性を得ることができ、time-lapse imaging画像を用いて移動方向を定量することでそれぞれ移植された細胞の移動方向には特徴的な傾向があることを見いだすことが出来た。 さらに、電子顕微鏡観察ではvaricosity部分に大脳新皮質と同様adherent junctionの存在を確認した。一方3D電顕によるvaricosityの観察については、胎児脳を用いた免疫電子顕微鏡用の試料作製は難しいために用いる予定であったが、現在、免疫電子顕微鏡観察においてGFPを発現させた細胞やその膜について区別して再現よく得ることが出来ていることから使用計画を見合わせている。 以上の結果、本年度はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
異所的な移植では、細胞が正常に移動できないことが明らかになったが、原因としてその場所の違いにより移動できないのか、細胞自身の性質の違いにより移動できないのか、それとも細胞外分泌物質等により引き寄せられているのか、あるいは反発しているのかどうか等を検討する予定である。 検討方法には、time-lapse imagingを行う際に海馬を切り取り、その時大脳新皮質に移植されたCA1細胞の動きを観察する。あるいは大脳新皮質およびCA1で異なる発現パターンを示している分子を探索し、その分子をknock downして異所的に移植した時の細胞の動態について検討する予定である。 最終年度であるため、成果を報告するために学術誌に投稿する準備を同時に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だった3D電子顕微鏡の画像構築用機器については、免疫電顕観察において形態を詳しく観察することができたので、3Dでの電子顕微鏡観察を行わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
異所的移植による細胞動態の原因を探るため、条件を変えたtime-lapse実験に加え、CA1錐体細胞の移動に関連する分子機構の解析に用いる予定である。
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