哺乳類の内側視索前野は内分泌情報や環境情報、他個体の社会的情報を統合し、下流の複数の本能や情動に関わる神経領域を制御し、性行動や養育行動、攻撃行動などの生得的な社会行動を制御する中枢であることが古典的な破壊実験などから示唆されてきた。また社会行動に限らず睡眠や摂食、体温調節にも重要な役割を持つ領域としても知られている。内側視索前野の機能的重要性の一方で、形態的複雑性が研究の障害となり、ブラックボックスとして扱われることも少なくなかった。このような背景から、研究代表者らは内側視索前野にどのような種類の神経細胞が分布するか調べ、その解剖について検討し、細分化した領域がどのような行動に関連するかについて調べてきた。 これまでのところ、内側視索前野における細胞の分類が終了し、少なくとも10種類以上の集団に分かれることが明らかとなった一方で、その大部分の細胞が性ホルモン受容体を発現していることを明らかにした。これらの情報に加え、性行動や養育行動、攻撃行動で活性化する神経細胞のマッピングを進めており、行動に対応する神経細胞が同定されている。特に、行動ごとに特異的な細胞集団がそれぞれ存在することと、3つの行動のいずれの場合にも活動している神経細胞集団が存在すること、経験によって活動性が変化する集団がいることが明らかとなっている。この情報を基盤にしてCre-loxp系を用いた神経細胞の操作を6系統のマウスに関して行い、表現型の乏しいマウス系統もあったものの、結果的に4系統について特異的な表現型を同定することができた。
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