本研究では、腫瘍抑制因子Wwoxの中枢神経系構築過程における機能を明らかにすることを目的として、Wwox遺伝子に機能喪失変異をもつ LDEラットの脳病変の発生メカニズムを解析した。昨年度までに実施した21日齢のLDEラットの脳組織を用いた解析に加え、5、10、15日齢の脳組織を用いてさらなる解析を行った。その結果、神経細胞数に顕著な変化は観察されなかったが、軸索の伸長不良を示唆する結果が得られた。アストロサイトならびに、ミクログリアにおいては、わずかな減少を示唆する結果が得られた。これに対し、10日齢頃から顕著になる髄鞘の形成はLDEラットにおいて髄鞘形成の初期から減少しており、この減少は成熟オリゴデンドロサイトの細胞数の減少を伴っていた。昨年度までの研究により示されたWwoxタンパク質のオリゴデンドロサイトへの局在と、これらの新たに得られた結果は、Wwoxがオリゴデンドロサイト系譜細胞の増殖と分化において重要な役割を担う可能性を示す。そこで、オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーの1つであるNG2の分布と発現量をLDEラットの脳において調査したところ、陽性シグナルならびにタンパク質発現量の増加が観察された。また、NG2陽性細胞の一部でWwoxタンパク質の局在が示された。これらの結果は、Wwoxの欠損によりオリゴデンドロサイトの正常な分化が阻害され、前駆細胞の蓄積が起きていることを意味する。すなわち、Wwoxがオリゴデンドロサイト前駆細胞の正常な分化に関与していることを強く示唆する。本研究の遂行により、腫瘍抑制因子として知られているWwoxが中枢神経系の構築過程においてオリゴデンドロサイトの正常な分化・増殖に関わる因子の1つであることが明らかとなった。
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