1. アルツハイマー病(AD)発症要因における脳ILEI発現レベル低下の意義 ILEIはγセクレターゼ複合体に結合し、基質APP-C99の安定性を低下させAβ産生を抑制する。AD脳ではILEI発現レベルが低下していることから、この発現低下が脳内Aβ増加、引いてはAD発症の一次的要因として関与している可能性があり、モデルマウス作出を通してこれを検証する。ILEIが個体発生において機能する可能性があるため、CaMKIIプロモーター下で神経細胞に特異的、かつタモキシフェン(Tm)誘導性にILEI遺伝子欠失を操作できるコンディショナルノックアウト(ILEI-icKO)マウスの作出を進めている。ゲノム編集を行った受精卵から胚移植を行い産仔を得た。ゲノムPCR及びDNAシーケンシングによりILEI-floxedマウスを選別中である。 2. 診断バイオマーカーとしてのILEIの意義 ILEIは分泌タンパク質であり髄液中に検出される。臨床研究計画について倫理委員会から承認を受け、AD発症前ないし初期軽症例において、髄液中ILEIレベルを検討している。昨年度樹立済のELISAシステムを用い、現在まで15症例の髄液中ILEIの測定を行った。 3. ILEIを標的とする先制医療の探索 ILEIとPS1の結合様式を統計力学3D-RISM理論を用いて解析し、分子設計によるAβ産生阻害薬の開発を目指している。この結合はPS1のC末端細胞外領域にあるDQL配列の近傍であること、この結合が複合体形成に依存せず当該アミノ酸配列によることを見出した。今年度、ILEIの予測構造上にDQL配列の側鎖の分布をマッピングした結果、ILEIのPS1認識部位の候補として、Lys84残基の近傍が特定された。現在、Lys84置換変異体を作製して、培養細胞を用いて解析を進めている。
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