研究課題/領域番号 |
15K18378
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
千葉 秀一 武蔵野大学, 薬学研究所, 助教 (00510380)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 社会性報酬 / 社会性行動 / 不安様行動 / 条件づけ場所嗜好 |
研究実績の概要 |
本研究は社会報酬に対する行動学的反応が、ラットの成長に伴って弱まっていく現象の機序を解明することを目指している。この研究から得られた成果は、社会的な交流から快感を引き出すことが難しくなる社会的アンヘドニアの発症機序を明らかにすることに役立つ可能性がある。自閉症スペクトラムは社会的な場面で適切な行動を選択することが困難であり、うつ病や統合失調症の精神疾患は社会的なアンヘドニアの症状があら現れることがあるため、これらの精神疾患の治療ターゲットを見出すことを本研究の目的としている。
これまでの条件づけ場所嗜好試験(SCPP)を用いた研究で、離乳直後の3週齢に比べて、成長の進んだ12週齢では社会報酬に条件付けられた場所の嗜好性が上がりにくくなっていることを見出している。本年度の研究でも、この現象を再現することが出来た。さらに、社会報酬反応に影響を与えると考えられる不安様行動、社会性行動と、SCPPにおける場所嗜好の変化との相関を調べた。報酬反応の強度と不安様行動の頻度の間に正の相関が見られ、また12週齢のマウスの方が不安様行動の頻度が高かった。この相関と不安様行動の週齢差を当てはめても、社会報酬反応の成長に伴う減弱を説明することは難しいため、他の要因を探索する必要が明らかになった。
SCPPの嗜好性試験翌日の前頭葉および側坐核のサンプルを採取済であるため、今後はこれらのサンプルを用いて、トランスクリプトーム解析を手がかりとして、社会報酬反応の減弱に関係するターゲットを同定する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間の初年度が終わった時点で行動学的解析の状況を見ると、社会報酬を用いた条件づけ場所嗜好試験(SCPP)では、予備的な研究と概ね同様の結果が得られた。すなわち、離乳直後の3週齢のWistar系オスラットは、1日10分間のソーシャルインタラクションで条件付けられた場所の嗜好性が、そうでない場所よりも有意に増加したが、成長の進んだ12週齢のラットではこのような大きな変化は見られなかった。
我々の先行研究では、社会報酬への反応が、その個体が示す不安様行動やうつ様行動と有意に相関することを見出している。そこで本年度はSCPPの前に不安様行動を高架十字迷路試験で、また社会性行動をソーシャルインタラクション試験を解析することで、それらと社会報酬反応に対する相関について調べた。3週齢に比べて、12週齢では高架十字迷路のオープンアームへの進入回数が減少したため、不安様行動の頻度は12週齢の方が高いことが示唆された。しかし、両方齢で不安様行動の頻度と社会報酬反応の強さは逆相関している、つまり不安様行動が多く見られる個体の方が報酬反応が強かった。この相関関係は先行研究と一致しているが、社会報酬反応の週齢による違いを不安様行動によって説明をつけることは出来ないことがわかり、この項目では本年度の達成目標には達したと考えられる。以上の結果は、第38回日本神経科学大会で発表した。SCPPに用いたラットの脳のサンプルを使ってトランスクリプトーム解析を次年度より開始する計画であったが、これは本年度途中から開始しており予定より早く取り掛かり始めることができている。
一方で、オペラント学習試験を応用した社会報酬反応の解析は、実験装置の改造などを試みているものの、現状では社会報酬反応の再現性が低く、十分な解析ができていない。以上を総合して、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究を中心に進めている研究代表が研究機関を変更するため、研究の計画を見直す必要が出てきている。まず、SCPPやオペラント学習試験実験は実験装置を設置するスペースなどを確保する必要が有り、また飼育しながら行動試験を組み込んで行く必要がある。現状の飼育および実験スペースが限られているため、この実験を継続することが難しい可能性も考えられる。その一方で、研究代表が所属する予定の国立精神・神経医療研究センター神経研究所にはゲノムセンターが設置されており、遺伝子発現解析の設備が整っているため、本年度で得られたサンプルを用いたトランスクリプトーム解析などは有利な状況にあるため、SCPPの前後で得られるサンプルなどを活用して、次年度以降はこれを精力的に行いたい。さらに、本研究所では2光子励起レーザー顕微鏡が設置されており、前頭葉での興奮性神経細胞のスパインイメージング等も可能であるため、ターゲット分子が同定できた場合は、行動薬理学的解析のみならず本システムを用いた解析を組み込みたい。
オペラント学習試験を用いた報酬反応の評価にはさらなる条件検討をはかる必要があるため、今後も継続して装置の改良を試みたい。現在のところ、3週齢と12週齢では社会報酬の有無によらず学習効率が異なっている。これは体格の違いによりレバーの高さや動き回りやすさなどの影響により、学習効率を適切に評価できるようになっていない可能性が考えられる。したがって、レバーの形状や実験装置のチャンバーサイズの見直しをしていきたい。
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