研究課題
ミオシンVI(Myo6)変異体であるksvマウスのヘテロ接合体(Myo6-ksv/+)は早発・進行性の難聴を発症するヒト優性難聴モデルマウスである。本研究は、その発症に遺伝的背景からの修飾効果を予想し、異なるマウス系統との交配実験から、難聴発症に機能するゲノム多型の同定を目的に以下の実験を実施した。・遺伝解析によるMyo6-ksv/+マウスの難聴発症修飾遺伝子座の同定マウスの聴力閾値を形質としたQTL解析を実施するため、本研究では、実施計画に基づき、遺伝的背景がC57BL/6J(B6)であるMyo6-ksv/ksvとMSM系統間の交配によりF2個体を作製した。得られた50個体のMyo6-ksv/+について3ヶ月齢までの経時的な聴力測定を行ったが、F2は予想に反して早発・進行性難聴の発症個体は認められなかった。そこで以前の予備実験において聴力差が認められている (MSM × Myo6-ksv/ksv) F1にMyo6-ksv/ksvを戻し交配した個体群を再作製し、Myo6-ksv/+を選抜し聴力測定を実施した結果、それらマウスの聴力閾値は正常~重度難聴に分布した。従って、B6の遺伝的背景にはMyo6-ksv/+マウスの表現型を修飾する遺伝因子の存在が示唆された。また、戻し交配個体の遺伝子型判定後、QTL解析を実施した結果、第10番染色体に高いロッドスコアが検出され、その領域には加齢性難聴の原因遺伝子座であるカドヘリン23(Cdh23)-ahlが存在していた。Cdh23-ahlはB6を含む多くの近交系マウスが保持し、さらに、多くの難聴モデルマウスの聴力に対して影響を与えることが報告されており、我々も難聴モデルマウスの優性難聴をCdh23-ahlの実体である753番目のアデニンをグアニンに置換することで難聴の回復に成功している(Miyasaka et al., Hum Mol Genet, in press)。現在、Myo6-ksv/ksvとCdh23-753G/Gマウス間の交配により樹立した両遺伝子の両アレルヘテロマウスを作製し、Myo6-ksv/+の進行性難聴発症への抑制効果を検証している。
3: やや遅れている
本研究はQTL解析のために作製したF2マウスに聴力差が検出できなかったことから、解析の対象を戻し交配個体に変更したため、大幅に研究の遅れが生じた。一方で、戻し交配個体の解析結果からMyo6-ksv/+ヘテロマウスの難聴発症を修飾する因子の有力な候補としてCdh23-ahl遺伝子座が特定できたこと、および我々が樹立したB6-Cdh23-753G/Gマウスが存在したことから、コンソミックマウスとの交配による遺伝解析が不要となり、今後のスピードアップが期待できるものとなった。また、本年度はヒト優性難聴発症の原因変異を模倣したMYO6-p.Cys442Tyrの樹立を目的としていたが、現時点では変異導入は達成できていない。
本年度の解析結果によってMyo6-ksv/+ヘテロマウスの難聴発症を修飾するB6マウスの遺伝的背景における主要な要因はCdh23の多型であることが強く示唆された。そこで次年度はその修飾効果を実証するため、作製したB6の遺伝的背景におけるMyo6-ksv/+, Cdh23-753A/Gマウスの聴力および内耳有毛細胞の感覚毛形態の詳細な表現型解析を実行する。また、MYO6およびCDH23両者の相互作用の有無を検証する。さらに、現時点でのQTL解析の結果から他の効果は弱いものの他の修飾因子の存在も示唆されている。そこで戻し交配個体のQTL解析を継続し、所属機関で蓄積しているB6, MSMおよび両者のF1個体の遺伝子発現データに基づき抽出した候補遺伝子の遺伝子発現解析を行う。また、本年度樹立に至らなかったMYO6-p.Cys442Tyr-KIマウスをゲノム編集により樹立し、その遺伝的背景による修飾効果を遺伝解析により検証する。
実験計画に変更があったことに加え、消耗品および旅費等が想定以上の割引率で計上されたため。
次年度予算に加算し、試薬等の消耗品の購入、KIマウス作製およびマウス飼育費等に使用する。
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Human Molecular Genetics
巻: 25 ページ: 2045-2059
doi: https://doi.org/10.1093/hmg/ddw078
http://www.igakuken.or.jp/mammal/index.html