MDSでは鉄過剰が臓器障害や白血病への進展にかかわることを示唆する報告がなされているが、鉄過剰と白血化との明確な関連性は明らかではない。近年、クエン酸回路に関わるIDH1/2の遺伝子変異が異常代謝産物である2-HGを産生させることが報告されている。この2-HGがDNAメチル化を亢進させ造血器悪性腫瘍の進展に関与している。一方、IRP1/ACO1は鉄過剰時にはIDH1/2にイソクエン酸を供給する。これらのことから、骨髄細胞での鉄過剰が糖代謝の異常を引き起こし、DNAメチル化にも関与している可能性を考え、鉄短期投与鉄過剰マウス骨髄細胞において鉄過剰が糖代謝関連酵素の発現にどのような影響を与えるかに着目し検討を行ったところ、Idh1およびAco1の発現が有意に亢進しており、DNAメチル化は鉄過剰群で有意に上昇していた。また、2-HGについては鉄過剰群で有意に増加していた。これらの結果から、鉄過剰によるIDH1やACO1の亢進が2-HGの産生を増加させ、骨髄細胞においてDNAメチル化を亢進させることが示唆された。 今年度は、臨床的に輸血後鉄過剰症に近いモデルを作成するため、長期鉄投与モデルマウスとしてC57BL/6マウスに鉄デキストラン10 mg/dayを週に2回、8週間腹腔内投与した。鉄過剰群で血清フェリチンが有意に増加し、骨髄細胞への鉄沈着も確認した上で骨髄細胞を用いて検討したところ、鉄過剰群で有意にDNAメチル化が低下していた。DNAメチル化亢進と共に特定の遺伝子のメチル化の低下も造血器腫瘍の発症に関与するという報告もあるため、RT-PCR法を用いてDMNM1やSetBP1等それらの遺伝子発現解析を行ったが有意な差は認められなかった。今後は鉄短期投与群と長期投与群でDNAメチル化の動態が異なる要因や、それらが造血器腫瘍の発症にどのように関与しているのかを検討する予定である。
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