研究課題/領域番号 |
15K18397
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 崇史 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (50740346)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | p53 |
研究実績の概要 |
1979年に発見されて以来、がん抑制遺伝子産物p53によって制御されている遺伝子ネットワークは複雑化の一途をたどっている。これは同時に、未だ多くのp53標的遺伝子が明らかにされていないことも意味している。そこで我々はp53の標的遺伝子を包括的に同定するために、がん細胞株を用いたIntegrated-multi OMICS analysis (transcriptome analysisとproteome analysisによる網羅的なp53標的遺伝子の探索)を行い、それぞれの解析で数十種類の新規p53標的遺伝子候補を同定した。現在、その中の一つであるArgininosuccinate synthase (ASS1)に着目し、解析を行っている。 ASS1はアルギニン生合成経路における律速酵素である。我々はストレス存在下においてp53がASS1の発現誘導を介してアルギニン代謝を変化させることを見出した。さらにCRISPR-Cas9 systemによってASS1 knockout cellsを樹立したところ、ストレス存在下においてASS1 knockout cellsではAktのリン酸化が有意に亢進することがわかった。我々はAktのリン酸化レベルがアルギニン欠乏条件下で亢進することを見出しており、ASS1 knockout cellsではストレス存在下に必要なアルギニンを合成できないために、このようなAktの活性化が起こっていると推測している。またASS1 knockout cellsはそのようなストレス存在下において細胞死が誘導されやすくなっていること、そしてこの細胞死の亢進はAktの活性化が一部要因となっていることを見出した。以上のことからp53はASS1の発現誘導を介してアルギニン代謝を制御することで、Aktの活性レベルをコントロールしていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現段階でp53-ASS1経路の生理的意義の解明はin vitroの実験系ではほぼ終了している。具体的には、intergrated multi-OMICS analysisによって見出したASS1がp53によって直接的に発現誘導されていることを確認した。次にp53によるASS1の発現誘導の生理的意義を明らかにするためにCRISPR-Cas9 systemによってASS1 KO cellsを樹立した。その後、細胞内におけるアルギニン合成経路の活性レベルを測定したところ、p53によってASS1の発現が誘導されると、細胞内でのアルギニン合成経路が亢進することを見出した。アルギニン合成を促進する理由として、我々はAktの活性レベルの制御を見出した。実際細胞内でのAktの活性レベルはアルギニンレベルの低下によって増加するが、p53が活性化するような条件下ではASS1 KO cellsにおいてAktの活性レベルが著しく高くなっていた。またこのような条件下では細胞死が誘導されやすいことがわかった。以上のことからp53はASS1の発現誘導を介して細胞内のアルギニンレベルを増加させ、Aktの活性レベルの制御に関与していることがわかった。このようにp53-ASS1 pathwayの解明がおおよそ1年でここまで進んだことから、おおむね順調に研究は進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はASS1+/-マウスを用いて、in vitroで観察された現象がin vivoでも観察されるかどうかを検討する。すでにASS1ヘテロマウスと野生型のマウスではX線照射後のサバイバルに差がでる傾向を見出している(ヘテロの方が生存率が低い)。またASS1野生型マウスの食事からアルギニンを抜くと、X線照射後の生存率が低下することを見出した。これらの結果はアルギニンがX線照射後の生存率に大きく影響を与えていることを示唆している。今後その確認および原因の究明を行う予定である。具体的には血中アミノ酸濃度を測定し、アルギニンなどのアミノ酸プロファイルがどのように変化しているのかを明らかにする。さらにX線照射後、各臓器におけるASS1の発現レベルを検討したり、組織学的にASS1ヘテロマウスと野生型のマウスで変化があるかどうかを観察する。
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