研究課題/領域番号 |
15K18401
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
村松 智輝 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (90732553)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん転移 / 移動・浸潤 / Hypusine経路 / タンパク質翻訳 / 翻訳後修飾 |
研究実績の概要 |
申請者は、がん転移メカニズムを解析するにあたり、in vivo selectionを用いて、口腔扁平上皮がん細胞株 (HOC313)から高転移性亜株であるHOC313-LMを樹立してきた。この両細胞株のゲノムコピー数の比較解析からLM特異的に19p13.2-p13.13領域の増幅が検出され、同増幅領域に座位しているDeoxyhypusine Synthase (DHPS) をがん転移関連遺伝子として同定した。DHPSは、hypusine経路の重要な酵素の一つであり、翻訳開始因子の一つであるeukaryotic translation initiation factor (eIF5A: eIF5A1, eIF5A2)をhypusine化させる働きを担っている。Hypusine経路は、タンパク質の翻訳制御を担っており、発生や細胞増殖などその機能は多岐にわたっている。上記メカニズムを詳細に解析するにあたり、様々な分子生物学的手法やシステム生物学的手法を用いた。その結果、同経路の異常な活性化がRhoAの翻訳を促進し、この被翻訳遺伝子が、がん細胞の移動能・浸潤能を亢進することを見出した。以上のことを論文でまとめ、申請者が第一著者として執筆し、Oncogeneに受理された (Muramatsu et al., Oncogene 2016)。しかし、hypusine経路が関与するその他のがんの悪性化メカニズム、特に被翻訳遺伝子は未だ不明である。本研究の目的は、RNAシーケンス解析とプロテオーム解析で得られたデータを用いた統合的オミックス解析により、同経路の異常な活性化による腫瘍形成の亢進と関連する被翻訳遺伝子を同定し、新規がん治療標的経路としてのhypusine axisの意義を明らかにすることである。現在、hypusine経路のタンパク質翻訳を担うeIF5Aの過剰発現形を用いてRNA-ChIP assay (RIP-assay)により、eIF5Aに結合したRNAを回収し、そのRNAを用いたRNAシークエンス解析が終了している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、hypusine経路の標的遺伝子探索として、翻訳を担うeIF5Aと結合するRNAの同定を行うべく、eIF5Aの過剰発現形を用いてRNA-ChIP assay (RIP-assay)を施行した。この過剰発現系は、Flagタグ付きの発現ベクターを用いたため、eIF5A1とeIF5A2それぞれに結合するRNAの同定が可能である。RIP-assayで得られたRNAを用いてRNAシークエンス解析を行うにあたり、RNA断片化処理の条件検討 (ソニケーターの出力、処理回数、一回あたりの秒数)を行った。条件を決定した後、RNAシークエンス用に最適化されたRNAを用いて、ライブラリー作製を施行した。ライブラリーの品質を検討するため、断片化RNAをバイオアナライザーで解析し、RNAシークエンス解析に耐えうる品質であることを確認した。その後、Ion proton (Life technology)を用いてRNAシークエンス解析を行った。得られたシークエンスデータは、バイオインフォマティクスの手法を用いて解析され、eIF5A1もしくはeIF5A2に結合する可能性を持つRNAを抽出した。現在、抽出された候補遺伝子が本当にeIF5Aに結合するかどうかを検討している。その検討は、それぞれに結合している可能性がある遺伝子の塩基配列が解析によって同定されているので、その領域をはさむようにプライマーを設計し、RIP-assayで得られたRNAからcDNAを合成し、RT-PCRで行っている。 また、本研究課題のきっかけとなった口腔扁平上皮がん細胞株を用いた高転移性亜株の解析論文がOncogeneに受理された。 上記のことから、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、RNAシークエンス解析で得られたデータを詳細に解析していく予定である。EIF5Aに翻訳制御される遺伝子には特徴があり、ポリプロリン配列 (PPPもしくはPPG)を持っていることが重要であるため、候補遺伝子の絞込みにこの基準を設ける。eIF5Aに結合している可能性のある遺伝子に関してはRT-PCRにより結合の有無を確認する。その後、結合が認められた遺伝子に関しては、タンパク質の発現制御を受けているかどうかをウエスタンブロッティングによって解析する。また、RNAシークエンスデータから、eIF5AとRNAの結合モチーフ解析を行う予定である。さらに、抽出された遺伝子群を公共データ解析ソフト (DAVID等)を用いてパスウェイ解析を行い、eIF5Aがどのようなシグナル経路に影響を与えているのかを検証する。 一方、ハイプシン化阻害剤を用いた実験系では、RNAとの結合からのアプローチではなく、プロテオーム解析によりeIF5Aによって翻訳制御を受ける遺伝子を同定する予定である。ハイプシン化阻害剤を処理した細胞からタンパク質を抽出し、非処理のタンパク質との網羅的な発現比較を行う。その方法は、2次元電気泳動法等の手技を用いて、本学に設置してある細胞プロテオーム解析室に委託して解析を行っていただく。得られたデータに関しては、ウエスタンブロッティングにより検討する。 最終的に、RNAシークエンスデータとプロテオーム解析データを統合し、eIF5Aの翻訳制御を受ける遺伝子を同定する。さらに、同定したeIF5Aの被翻訳遺伝子の機能解析を施行し、がん治療の新たな標的となり得るのかを検討していく予定である。
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