研究実績の概要 |
Hypusine経路は、タンパク質の翻訳制御を担っており、発生や細胞増殖などで重要な働きをしている。現在までに申請者は、同経路の異常な活性化がRhoAの翻訳を促進し、がん細胞の移動能・浸潤能を亢進することを見出し、論文を報告した (Muramatsu T et al., Oncogene 2016)。しかし、その他のがんの悪性化に関与する被翻訳遺伝子は未だ同定できていない。したがって、本研究の目的は、RNA-ChIP法を用いたRNAシーケンス解析とプロテオーム解析で得られたデータを用いた統合的解析により、同経路の異常な活性化による腫瘍形成の亢進と関連する被翻訳遺伝子を同定し、新規がん治療標的経路としてのhypusine経路の意義を明らかにすることである。 Hypusine経路の被翻訳遺伝子探索として、翻訳を担うeIF5Aと結合するmRNAの同定を行うべく、RNA-ChIP法(RIP法)を施行した。eIF5Aには、eIF5A1とeIF5A2のisoformが存在しているため、それぞれのタグつき発現コンストラクトを作成し、タグ抗体を用いてRIP法を行った。RIP法で得られたRNAを用いてRNAシークエンス解析を行った。得られたシークエンス情報から、それぞれのisoform特異的な遺伝子および両方に共通した遺伝子を抽出した。その後、eIF5Aは、翻訳をする際に被翻訳遺伝子にプロリンリッチな配列が必要であることから、その条件を加え、さらに候補遺伝子を絞り込んだ。そして、抽出された遺伝子が、実際にeIF5Aと結合しているかどうかを確認するため、RT-PCR法によって検討を行った。その結果、いくつかの候補遺伝子で結合を認めた。しかし、これら遺伝子のタンパク質翻訳が直接行われているのかは不明であり、さらなる解析が必要である。また、RNAシークエンス解析で得られた情報を基にeIF5AとmRNAの結合モチーフ解析も行い、いくつかの候補配列を得ることができた。
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