研究課題/領域番号 |
15K18402
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
口丸 高弘 東京工業大学, 大学院生命理工学研究科, 助教 (10570591)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 骨転移 / 転移モデル動物 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまでマウスにおいて血行性骨転移過程の解析に用いられてきた左心室移植モデルの問題点を改善した新たな骨転移モデルを確立した。具体的には、移植に高度な手技を必要とせず、骨髄へ効率良く・大量のがん細胞を送達することで、骨転移形成効率の向上、骨転移形成期間の短縮を可能にする、マウスの尾動脈からがん細胞を移植する尾動脈移植モデルを開発した。尾動脈移植モデルは、本研究課題の目的である、骨転移形成過程を司る分子機構の解析を効率良く推進するにとどまらず、過去20年間にわたって利用されてきた左心室移植モデルに代わる、新しい標準モデルになる可能性があり、骨転移研究への多大な貢献が期待される。 尾動脈移植モデルの特性を、左心室移植モデルとの比較実験を通して多角的に評価した。まず、同数(20万細胞)の肺がん細胞LLCをマウスの左心室もしくは尾動脈から移植し、後肢骨髄へのがん細胞の送達効率と骨転移病巣の形成速度について、生物発光イメージングによって解析した。その結果、尾動脈移植は左心室移植よりも約3倍多くのがん細胞を後肢骨髄へ送達し、骨転移病巣の形成期間を大幅に短縮できることが明らかになった。また、左心室移植では、しばしば移植直後に血栓が生成され、マウスに致死的なダメージを与えるため、大量のがん細胞を移植することは難しい。しかし、尾動脈移植では、移植に伴う強いストレスが観察されなかったことから、移植可能ながん細胞数を調べたところ、左心室移植で標準的に用いられる細胞数の10倍のがん細胞(200万細胞)を移植可能であることがわかった。大量のがん細胞を尾動脈から移植することで、骨転移形成効率の上昇、骨転移形成過程のさらなる短縮が、乳がん、前立腺がん、肺がんなど、骨転移を頻発するがん種由来の細胞株において確認された。現在、これらの結果を論文化し、投稿する準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、血行性骨転移をマウスに再現する左心室移植モデルの問題点を改善した尾動脈移植モデルを確立し、当初の計画目標を達成した。移植に高度な手技を必要とせず、骨髄へ効率良く・大量のがん細胞を送達を可能にする尾動脈移植モデルは、今後の骨転移形成過程の分子的解析に非常に有用である。また、次年度に向けた予備実験として、尾動脈移植モデルにおいて形成された骨転移微小コロニー周辺・内部に存在する骨髄由来の細胞群について様々な表面マーカーで免疫染色解析し、骨転移形成過程においてがん細胞と相互作用している骨髄由来細胞の絞りこみを開始した。その結果、骨転移した前立腺がん細胞コロニーの周辺に間葉系幹細胞由来の間質細胞が積極的にリクルートされていることが見出された。また、骨転移の進行に伴って表面マーカーの異なる骨髄間質系細胞群が骨転移組織周辺、内部に存在していることも明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
当初、骨髄系細胞とがん細胞との相互作用が、骨転移形成過程において果たす役割について明らかにする計画であったが、骨免疫染色解析の結果、間葉系幹細胞由来の骨髄間質細胞が骨転移がん細胞と積極的に相互作用している可能性が示唆された。そこで、まず、骨転移コロニーにリクルートされている間葉系幹細胞由来の間質細胞が発現している表面マーカーの詳細を免疫染色解析によって明らかにし、in vitro培養系に単離する。そして、当初計画していたように、がん細胞との共培養アッセイなどを通して、がん細胞との相互作用を解析し、骨転移形成過程に果たす役割を明らかにすることを目指す。具体的には、1) 間葉系幹細胞由来の骨髄間質細胞が骨転移の成長を促す機能を有しているか、2) がん細胞がどのような分子を介してこの骨髄間質細胞をリクルートしているのか、について調べる。また、多くの骨転移病巣では、病巣の成長に伴い溶骨病変が観察され、骨折など患者の予後不良の原因となる。溶骨病変の進行には骨転移病巣への未分化骨髄系細胞のリクルートが関わっていることが知られており、間葉系幹細胞由来の骨髄間質細胞が未分化骨髄系細胞のリクルートなどを介して溶骨病変の形成に果たす役割についても考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題の効率的な推進に必要な実験装置の移設費など、当初予定していなかった支出について調整した過程で少額な次年度への使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品購入予算として使用する。
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