過去20年以上にわたって、マウスの血行性骨転移モデルの構築には、マウス左心室からがん細胞を動脈血流に移植する左心室移植モデルが用いられてきた。しかし、左心室に正確にがん細胞を注入する手技の必要性や、骨髄へのがん細胞のホーミング効率が低いことで、効率的な骨転移研究の推進を阻んできたにもかかわらず、代替法が開発されていない状況であった。そこで、本研究課題において、マウスの新たな動脈移植経路として尾動脈を用いた、手技的に簡便で、骨転移形成効率を大幅に向上する新規血行性骨転移モデルを開発した。この尾動脈骨転移モデルの構築手法、骨転移形成特性や汎用性をまとめた論文を投稿し、現在、revision中である。さらに、尾動脈移植法によって構築した前立腺がんの血行性骨転移モデルを用いて、骨髄内における骨髄間質細胞とがん細胞の相互作用について解析し、幾つかの新しい知見を得た。具体的には、1) 骨髄にホーミングした直後、がん細胞で低酸素誘導因子が活性化する、2) がん細胞が骨髄にホーミングして、微小コロニーを形成する過程において、特定の骨髄間質細胞を骨転移コロニーにリクルートする、3) 骨転移コロニーにリクルートされる骨髄間質細胞は、骨転移コロニーの成長に関わる、4) 微小コロニーが成長を開始する時にがん細胞のNF-kBが活性化される、ことが明らかになっている。現在、これらの詳細な分子的理解を進めており、骨転移コロニーの成長を抑制する新たな治療標的分子の同定を目指している。
|